インフルエンザ治療薬「タミフル」で異常行動は生じるのか?

タミフル(一般名:オセルタミビル)はインフルエンザウイルス感染症に対する治療薬です。

ノイラミニダーゼ阻害薬という種類に属し、インフルエンザウイルスの増殖を抑える作用を持ちます。

インフルエンザウイルスは、その強力な感染力から毎年冬に多くの方に感染します。タミフルをはじめとした抗インフルエンザ薬は、インフルエンザの増殖を抑える事で、治癒を早めてくれる非常に有効な治療法になります。

しかし2006年にタミフル服用中の10代のインフルエンザ患者さんに異常行動が相次いで認められました。高所からの飛び降りによる転落死、道路への飛び出しによる交通事故死などに至ったケースもあり、これはニュースでも大きく取り上げられました。

この報道を受け、世間からは「タミフルは危険なお薬だ」と認識されるようになってしまいました。

最近はこのようなニュースは聞かなくなってきましたが、タミフルは本当に異常行動が生じる危険なお薬なのでしょうか。

ここではタミフルと異常行動の関連性についてお話しさせていただきます。

1.タミフルで異常行動は生じるのか

タミフルを服用する事で、異常行動が生じる可能性があるのでしょうか。

結論から言ってしまうと、タミフルが異常行動の原因となる可能性は極めて低いと考えられています。

2006年にインフルエンザを発症した10代の患者さんが異常行動(独語・空笑・幻覚など)を来たした事が報告されました。また異常行動によって飛び降りや転落などをきたし命を落としたケースもあり、これは「タミフルを服用中の患者さんに異常行動が生じた」というニュアンスで大々的にニュースで報道されました。

これを受け、「タミフルは危ないお薬」という認識が世間一般に広まってしまいました。

タミフルと異常行動についての調査や研究がその後に行われましたが、現在の見解としては「異常行動はタミフルの副作用ではなく、インフルエンザの症状で生じたものである」という考えが有力となっています。

つまり、タミフルが異常行動の原因なのではなく、インフルエンザが異常行動を起こした原因である可能性が高いという事です。

2.異常行動がタミフルのせいではないという根拠

インフルエンザにかかっていた10代の方がタミフルを服用して、異常行動が出現したというのは事実です。

現時点でのこの異常行動への見解は「インフルエンザの症状として生じた」という考えが有力となっていますが、これはどのような根拠からでしょうか。

もちろんタミフルの副作用の可能性がゼロというわけではありません。しかし様々な調査から、タミフルの副作用である可能性よりも、インフルエンザの症状による可能性が高いという事が結論付けられ、現在でも医療関係者や専門家の間では、この考えが主流となっています。

異常行動の原因がタミフルではなく、インフルエンザの症状であると判定された根拠を紹介します。

Ⅰ.異常行動はインフルエンザで生じる症状である

問題となった異常行動の具体的な症状としては、

  • 独語:独り言
  • 空笑:意味もなく笑っている
  • 幻視:見えないものが見える
  • 突飛な行動:高所からの飛び降り、道路への飛び出しなど

などが挙げられます。

これらの行動はすべてインフルエンザの症状として説明がつきます。実際タミフルを服用していないインフルエンザ患者さんにもこれらの症状が出現しうる事が確認されています。

インフルエンザにかかると通常、38~40℃という高い熱が認められます。そして高熱を来たすと、「熱性せん妄」という状態を来たす可能性があります。

みなさんも風邪などで熱が出た時に頭がボーッとして何も考えられなくなったり、今の状況を冷静に判断できなくなったという経験はないでしょうか。熱性せん妄はこれが更にひどくなった状態と考えてください。

意識が朦朧として、せん妄状態になるため、正常な状況判断が出来なくなり、上記のような異常行動をきたしてしまうのです。

熱性せん妄は特に脳の発達がまだ未成熟である小児や未成年で生じやすいため、特に20歳未満で生じます。

問題があったケースの多くは10代でしたが、これは10代未満の子に対しては、ほとんど親が付き添って介護しているために、このような異常行動による惨事が防げたためだと考えられます。

またインフルエンザは稀ですが脳症や脳炎を起こす事もあります。脳炎や脳症を起こせば、これも異常行動が出現しうる可能性があります。

インフルエンザにかかった患者さんで、タミフルを服用している群と服用していない群で、異常行動の出現率に差がない事を示した研究もあり、ここからもタミフルが原因で異常行動が出現したとは考えにくいと言えます。

Ⅱ.異常行動をした患者さんの脳にタミフルは届いていなかった

タミフルを服用し、異常行動による飛び降りをきたしてしまい亡くなってしまった10代患者さんの脳髄液を調べたところ、脳内からタミフルの成分であるオセルタミビルは検出されなかった事が報告されています。

ここから、脳内にタミフルはほとんど入っていなかったと推測できます。

異常行動は脳に何らかの異常が生じて出現した症状だと考えられます。もしタミフルのせいで異常行動が生じたのであれば、脳からタミフルの成分が検出されるはずです。

タミフルを服用していた患者さんの脳からタミフルの成分が検出されなかったという事は、異常行動はタミフルのせいではない可能性が高いという事が出来ます

Ⅲ.世界的に見てもタミフルと異常行動の報告は少ない

タミフルは世界中で処方されている抗インフルエンザ薬ですが、日本以外の海外では「10代の投与すると危険」という認識はほとんどありません。

もしタミフルで異常行動が生じているのであれば、世界的に使われているお薬ですので、もっと世界中で問題となっているはずです。

一方で「インフルエンザで時に異常行動が生じる」というのは世界的にも知られているインフルエンザの症状の1つになります。

Ⅳ.厚労省の調査結果も「明確な関連性はない」という判断

タミフルと異常行動について厚生労働局が行った調査結果として、次のように記載があります。

・タミフルと異常な行動の因果関係について、疫学調査の解析結果のみから明確な結論を出すことは困難であると判断された。
・タミフル服用の有無にかかわらず、異常行動はインフルエンザ自体に伴って発現する場合があることが明確となった。
・平成19年3月の予防的な安全対策以降、タミフルの副作用報告において、10代の転落・飛び降りによる死亡等の重篤な事例が報告されていない。

「絶対にタミフルが原因ではないよ」と断言はしていませんが、この文面からもタミフルに可能性は低い事が分かります。

3.10代のインフルエンザ患者さんはタミフルを使っても良いのか

現在では、「異常行動はタミフルの副作用ではなく、インフルエンザの症状である」という考えが医学界の見解です。

そのため、子供(小児や未成年)にインフルエンザが生じた時、タミフルを使用しても問題ないと考えられます。

しかし一方で、異常行動との関連性を指摘されてから、タミフルの添付文書には次のように記載されるようになりました。

10歳以上の未成年の患者においては、因果関係は不明であるものの、本剤の服用後に異常行動を発現し、転落等の事故に至った例が報告されている。

このため、この年代の患者には、合併症、既往歴等からハイリスク患者と判断される場合を除いては、原則として本剤の使用を差し控えること。

また、小児・未成年者については、万が一の事故を防止するための予防的な対応として、本剤による治療が開始された後は、

①異常行動の発現のおそれがあること
②自宅において療養を行う場合、少なくとも2日間、保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮すること

について患者・家族に対し説明を行うこと。

なお、インフルエンザ脳症等によっても、同様の症状が現れるとの報告があるので、上記と同様の説明を行うこと。

このようにタミフルと異常行動の因果関係は不明としながらも、「10代にはあまり使わない方がいいですよ」という文面が書かれています。

こう書かれてしまっているため、実際は10代の方がインフルエンザにかかってしまったら、タミフル以外の抗インフルエンザ薬を使用する方が無難ではあると言えます。

医学的な見解としては問題なくても、添付文書にこう書かれている以上、万が一異常行動が生じてしまったら処方した医師に責任が生じてしまう可能性があるためです。

やむを得ずタミフルを服用する場合も、服用後2日間は親御さんがそばについて、万が一異常行動が生じてもすぐに対処できるように周囲の安全を保っておくべきでしょう。

ちなみにタミフル以外の抗インフルエンザ薬には、

  • リレンザ(一般名:ザナミビル)
  • イナビル(一般名:ラニナミビル)
  • ラピアクタ(一般名:ペラミビル)

があります。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする