マイコプラズマって何?

マイコプラズマ(Mycoplasma)は、主に肺に感染して肺炎を引き起こす病原体として知られています。

かつては4年に1回、周期的に流行するといった特徴があり「オリンピック病」と呼ばれたりもしていましたが、近年では年度・季節を問わず発症する傾向があります。

マイコプラズマ肺炎は、咳が長引いたり、通常の肺炎に効果がある抗生物質が効かなかったりと、他の細菌によって生じる肺炎とは異なる特徴があります。

果たしてマイコプラズマってどんな病原体なのでしょうか。

今日はマイコプラズマという病原体について詳しく見ていきましょう。

1.マイコプラズマって何?

マイコプラズマ(Mycoplasma)ってどんな病原菌なのでしょうか。細菌なのでしょうか。ウイルスなのでしょうか。それとも別の病原体なのでしょうか。

結論から言うと、マイコプラズマは細菌の一種です。

肺炎の原因となる細菌はたくさんありますが、マイコプラズマもそれらの菌と同様に、口から私たちの身体の中に侵入し、「肺」に到達して肺を傷つけ、肺炎を引き起こします。

ちなみに肺炎を引き起こす細菌にはマイコプラズマの他にも、

  • 肺炎球菌
  • インフルエンザ菌
  • 黄色ブドウ球菌
  • クレブシエラ菌

などがありますが、これらの菌によって生じた肺炎は「細菌性肺炎」とまとめて表現されます。一方でマイコプラズマは「マイコプラズマ肺炎」と別個に扱われます。

どちらも同じ細菌が肺に感染して肺炎を引き起こしているのに、なぜマイコプラズマだけ別枠扱いなのでしょうか。

それは、マイコプラズマは細菌ではあるものの、一般的な細菌とは異なるいくつかの特徴を持っているためです(その具体的な特徴については次の項で紹介します)。

そのため同じ細菌でありながら、「細菌性肺炎」とは別に「マイコプラズマ肺炎」として別に扱われる事が多いのです。

しかしマイコプラズマが細菌の一種である事には変わりありません。

マイコプラズマとは、私たちの肺に感染して肺炎を引き起こす細菌の1種です。

2.マイコプラズマの特徴

マイコプラズマは私たちの肺に感染する細菌だという事が分かりました。

しかしマイコプラズマ感染によって生じた肺炎(マイコプラズマ肺炎)は、他の細菌によって生じた肺炎(細菌性肺炎)と別個に扱われます。

その理由は、マイコプラズマ感染は他の細菌感染とは異なる特徴があるためです。

ではマイコプラズマはどのような特徴を持っているのでしょうか。肺炎の診断や治療を行う上で重要となる違いについて紹介します。

Ⅰ.細胞壁がない

一般的な細菌とマイコプラズマが異なる点として、マイコプラスマには細胞壁がないという点がまず挙げられます。

一般的な細菌は細胞の周りに「細胞壁」という層を持っています。細胞壁は細胞の中身を保持したり保護するはたらきがありますが、マイコプラスマにはこれがないのです。

そしてこの細胞壁がない事は、マイコプラズマを治療する際に極めて重要になります。

なぜでしょうか。

私たちが細菌に感染してしまった時、細菌をやっつけるためには「抗生物質(抗菌薬)」を使います。

抗菌薬にはいくつかの種類がありますが、大きく分けると、

  • 細胞壁合成阻害薬(細菌の細胞壁を作れなくする事で細菌をやっつける)
  • 蛋白合成阻害薬(細菌の蛋白質を作れなくする事で細菌をやっつける)
  • 核酸合成阻害薬(細菌のDNAの転写をブロックする事で細菌をやっつける)

といったものがあります。

マイコプラズマ感染において重要な事は、「細胞壁合成阻害薬」がマイコプラズマには効かないという事です。マイコプラズマにはそもそも細胞壁がないわけですから当然ですよね。

例えば、βラクタム系(ペニシリン系、セフェム系)と呼ばれる抗菌薬は細菌の細胞壁を作れなくする作用を持ち、これによって細菌をやっつけますが、マイコプラズマには効きません。

一方で、マクロライド系やテトラサイクリン系と呼ばれる抗生物質は、細菌のたんぱく質の合成をブロックする事で細菌をやっつけるお薬です。これはマイコプラスマに効きます。

またニューキノロン系と呼ばれる抗生物質は、細菌のDNAの転写をブロックする事で細菌をやっつけるお薬ですので、これもマイコプラスマに効きます。

このようにマイコプラズマは細胞壁がないため、他の細菌であれば効くような抗菌薬でも効かない事があるのです。

Ⅱ.菌が直接肺を攻撃しない

肺炎を引き起こす細菌は、基本的には口から身体の中に侵入して肺に到達し、肺を攻撃します。

一般的な細菌は、肺に到達すると肺細胞を直接攻撃して破壊していきます。これにより炎症が生じ、発熱や呼吸苦、咳・痰などが生じるわけです。

しかしマイコプラズマはこれと異なります。

マイコプラズマは肺細胞を直接攻撃する力は極めて弱いのですが、細菌の細胞表面に炎症を引き起こすような物質を持っています。

これが肺細胞に触れると、私たちの身体の免疫反応(身体に備わっている異物を排除するシステム)が過剰に活性化してしまい、これにより肺炎症状が生じます。

そして、この違いは診察・検査所見に現れます。

一般的な細菌性肺炎では、細胞が直接肺を攻撃する結果、

  • 聴診で肺に異常音が生じる
  • CRP(炎症反応を表す検査値)が高くなる
  • 白血球数が高値となる

といった所見が得られるのに対し、マイコプラズマ肺炎では、

  • 聴診でも肺に異常音が乏しい
  • CRPがあまり上昇しない
  • 白血球数があまり上昇しない

という所見になるのです。

このように、マイコプラズマは一般的な肺炎と異なった様式を取るため、「異形肺炎」「非定型肺炎」と呼ばれる事もあります。

Ⅲ.子供で軽症、大人で重症

一般的な細菌に感染した場合、ばい菌と闘う力(免疫力)がまだ未熟な子供の方が大人よりも重症化しやすい傾向があります。

しかしマイコプラズマは逆です。

乳幼児に感染しても、普通の風邪程度の症状になりますが、大人に感染すると肺炎を引き起こします。

なぜでしょうか。

この理由は先ほど説明したようにマイコプラズマは、菌が直接肺を攻撃するのではなく、免疫反応を過剰に活性化させる事で肺にダメージを与えるためです。

一般的な細菌は私たちの体内に入ると、私たちの細胞を攻撃する事でダメージを与えます。

免疫力は子供よりも大人の方がしっかりと持っているため、免疫力の未熟な子供では症状は軽くなり、免疫力が発達している大人の方が症状が悪化しやすいのです。

Ⅳ.肺外病変を伴う事がある

一般的な細菌が肺炎を起こした場合、細菌が肺を直接攻撃するわけですから、異常がある部位は肺のみにとどまります。

しかしマイコプラズマ肺炎は、細菌が直接肺を攻撃するのではなく、私たちの免疫を過剰に活性化させる事で肺炎を引き起こします。

免疫の活性化は肺だけで生じるわけでなく、全身で生じますので、マイコプラズマ感染症では肺外病変(肺以外の臓器にも病変が出現すること)が生じる事があります。

例えば、

  • 皮膚に発疹が生じる
  • 下痢・嘔吐
  • 脳炎、髄膜炎
  • 心外膜炎
  • 関節炎
  • 溶血性貧血
  • 肝機能障害

などが報告されています。

3.マイコプラズマはどうやって感染するの

マイコプラズマはあらゆる年代の方がかかる可能性がありますが、特に小児で多い事が知られています。

このマイコプラズマにはどうやって私たちの身体に感染するのでしょうか。

マイコプラズマは基本的には、ヒトからヒトにうつる事で感染します。

うつり方としては「飛沫感染」が主になります。飛沫感染というのは、マイコプラズマに感染している人が咳やくしゃみをする事によって、唾液や鼻水などの水分とともにマイコプラズマが体外に排出され、それを別の人が吸い込む事によって感染するという経路です。

おおよそですが、

  • 咳をすると2m
  • くしゃみをすると5m

ほどの距離まで細菌が拡散されますので、その範囲内にいた人が息を吸い込んだ際に感染してしまう可能性があります。

またそれ以外にも「接触感染」でもうつります。接触感染とは、手などにマイコプラズマがついている状態(例えばくしゃみを手で押さえた、など)でどこかを触ってしまい、その部位をまた別の人が触ってしまい、その手で何かを食べたりする事で口の中にマイコプラズマが入ってしまうという経路です。

マイコプラズマは感染してもすぐに症状が出るわけではありません。

一般的にマイコプラズマの潜伏期は2~3週間と言われており、長い間体内で潜伏します。感染後2~3週間で熱が出たり咳が続いたりするようになりますが、このように潜伏期が長いため、どこで感染したのかが分かりにくいのもマイコプラズマの特徴です。

4.マイコプラズマに特徴的な症状

ここまでで説明してきたように、マイコプラズマは細菌による肺炎でありながら、他の細菌性肺炎とは異なった機序で肺炎を引き起こし、また他の細菌性肺炎で効果のある抗菌薬が効かない事があります。

そのため、出来るだけ早い段階で「これはマイコプラズマ肺炎かもしれない」と気付く事が大切です。

ではマイコプラズマ肺炎にはどのような特徴があるのでしょうか。

実際は、風邪症状の方を診察した時、すぐにマイコプラズマ肺炎だと診断する事は困難で、マイコプラズマだと診断するまでに時間がかかる事も少なくありません。

認められる症状としては、

  • 38度を超える発熱
  • 乾いた咳
  • 喉の痛み
  • 鼻水、鼻詰まり
  • 倦怠感

などがありますが、これは一般的な風邪でも認められるため、区別を付けるのはなかなか難しいのが現状です。

ある程度経過してきたら、マイコプラズマを疑う症状として、

  • 頑固な咳(乾いた咳)が続く
  • 肺外病変(発疹や関節炎など)を認める
  • βラクタム系抗菌薬を投与しても治らない
  • 肺炎(レントゲンで確認)の割に聴診で異常音を認めない
  • 肺炎の割にCRP、白血球などが血液検査で上昇していない

などが挙げられます。このような傾向がある時はマイコプラズマを疑う必要が出てきます。

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