稗粒腫に漢方薬のヨクイニンは効くのか?

稗粒腫(はいりゅうしゅ、ひりゅうしゅ)は、主に新生児や成人女性の顔に生じる小さなできものです。

身体に何か害をきたすものではなく良性のできものなのですが、顔という目立つ部位に出来てしまう事から、「なんとか治療したい」と希望される方も少なくありません。

稗粒腫の基本的な治療法というのは、針で穴を開けて中身を摘出したり、レーザー照射といった方法になります。しかしこれらは多少ですが痛みも伴う治療法ですので、「何とか飲み薬で治せませんか」と相談される事もあります。

疣贅(イボ)の治療に「ヨクイニン」という漢方薬が有効である事から、「稗粒腫にもヨクイニンが効くのではないか」と考える方もいらっしゃり、ヨクイニンを自分で購入して服用されている方もいるようです。

しかし果たして稗粒腫にヨクイニンは効果があるのでしょうか。

ここでは稗粒腫に対するヨクイニンの効果についてお話させていただきます。

1.稗粒腫とは

まずは稗粒腫がどのような疾患なのか、その全体像を簡単に説明させていただきます。

稗粒腫は、皮膚に生じる良性腫瘍(できもの)の一種です。「腫瘍」と聞くと驚かれるかもしれませんが、腫瘍といっても癌のような悪性腫瘍ではありません。いわゆる「できもの」という言葉が一般的なイメージとしては合っているでしょう。

稗粒腫の多くは1~2mmと小さく、色も白~黄色で光沢があります。遠目から見れば目立つものではありません。ただし多発する事、顔に出来やすい事、成人女性に認められる事などから気にされて治療を望まれるケースも少なくありません。

稗粒腫は、名前からも分かる通り「稗(ヒエ)」の粒が皮膚についているような外観をしています。

稗、といってもこれがどのようなものなのかイメージが沸かない方も多いでしょう。稗(ヒエ)は昭和の初め頃までは平民の主食として、米の変わりに食べられていた穀物です。現在ではよりカロリーの高い米に取って変わられましたが、今でも鳥などのエサとして使われています。

稗の粒は米粒よりも小さく黄色っぽい色をしており、稗粒腫と似ています。

しかし稗粒腫は、もちろん稗の粒ではありません。その正体は角質の塊になります。

ではこの角質とは何でしょう。角質について知るために皮膚の正常の構造について少し勉強しましょう。

私たちの皮膚は外側から、

  • 表皮
  • 真皮
  • 皮下組織

と層をなしています(皮下組織の下に筋肉や臓器などがあります)。

そして皮膚の一番外側にある表皮は更に細かく、

  • 角質層
  • 顆粒層
  • 有棘層
  • 基底層

と4つの層に分ける事が出来ます。

表皮を構成する細胞である「角化細胞」は、一番奥にある基底層で作られ、成長とともに有棘層⇒顆粒層⇒角質層と上がっていき、最後は「垢(アカ)」として皮膚から剥がれ落ちていきます。

これを皮膚の「ターンオーバー」と呼び、このターンオーバーはおおよそ1か月のサイクルで行われています。

このように本来であれば垢として剥がれ落ちるはずの角質が皮膚内に溜まってしまい、嚢(ふくろ)状にくるまれてしまったのが稗粒腫です。

稗粒腫は表皮下に生じますが、何らかの原因によって表皮下に嚢ができてしまい、その嚢を構成する細胞が基底層細胞のよう角化細胞を作ってしまうと、角質がどんどんと嚢の中に溜まってしまいます。これが稗粒腫となります。

稗粒腫は元々身体の一部である角質が成分ですので、何か身体に害を来たすようなできものではありませんし、何か問題となるような症状が現れる事もありません。

その多くはどんどんと増大していくような事もありません。多くが1~2mm程度であり、大きくても5mm程度にとどまります。

正常の角質のように自然と皮膚から剥がれ落ちていく事もありますが、そうなっても結局また新しい稗粒腫が出来てしまう事も多く、完全に稗粒腫を除去するのはなかなか難しいところがあります。

2.稗粒腫にヨクイニンは効くのか

稗粒腫はできものではありますが、身体に害はあるものではありません。

そのため本人が気にならないのであればそのまま放置しておいて問題ありません。

治療を希望される場合には、

  • 針で刺して角質を取り出す
  • 炭酸ガスレーザー治療

などの方法が取られる事が一般的です。

これらの治療法は稗粒腫に効果的ではありますが、多少の侵襲性がある事から「飲み薬で治せないか」と考える方もいらっしゃいます。

皮膚疾患を治すためにしばしば処方される飲み薬に、漢方薬の「ヨクイニン」があります。ヨクイニンは「疣贅(いわゆるイボ)」を穏やかに治す作用があるため、稗粒腫にも効くのではないかと考え、市販のヨクイニンを購入して服用される方もいらっしゃるようです。

では稗粒腫にヨクイニンは効くのでしょうか。

結論から言ってしまうと、稗粒腫にヨクイニンはあまり効果はないと考えられます。

ヨクイニンには皮膚の新陳代謝を促す作用もあるため、それによって多少、稗粒腫が消失しやすくなる可能性はあります。しかし少なくとも「服用すれば明らかに改善する」というものではありません。

ヨクイニンはしばしば「尋常性疣贅(いわゆるイボ)」の治療に用いられています。

ヨクイニンには免疫細胞を活性化する作用があると考えられており、実際にそれを確認した試験もあります。免疫細胞というのは、ウイルスや細菌などの異物が体内に侵入してきた時に、それを検知してやっつける細胞の事です。

意外と知られていませんが、実は疣贅(イボ)はウイルス感染によって生じる事が分かっています。HPV(ヒトパピローマウイルス)というウイルスが表皮の細胞に感染し、感染細胞が異常に増殖してしまう事で疣贅が生じるのです。

ヨクイニンは免疫を活性化させる作用があるため、これによってウイルスをやっつける力が高まります。これによってウイルス感染が原因で生じている疣贅(イボ)を改善させると考えられています。

ではこのヨクイニンが稗粒腫に効くかというと、これは疑問です。なぜならば稗粒腫は、疣贅と異なりウイルス感染が原因ではないためです。

角化細胞を作る基底層が本来あるべきところでない部位で角化細胞を作ってしまうため、その部位に角質が溜まってしまうのが稗粒腫で、ウイルスは稗粒腫の発症と何の関係もありません。

ヨクイニンには免疫活性化作用以外にも皮膚の新陳代謝を促す作用があるため、これによって多少、稗粒腫を改善させる可能性はありますが、この効果の強さは不確かであり、少なくとも「ヨクイニンは稗粒腫に効きます」と言えるものではありません。

3.稗粒腫を治す方法

残念ながら稗粒腫にヨクイニンはそこまで確かな効果はないという事をお話してきました。

では稗粒腫を治したいという方はどうすればいいのでしょうか。

まず稗粒腫は放置していて何か身体に害をきたすものではないという事は知っておく必要があります。そのため、稗粒腫がある事でそんなに困っていないのであれば無理に治療する必要はなく、そのまま放置しておいても良いのです。

このように稗粒腫には実害はないのですが、美容的な理由で何とか治したいという場合は、皮膚科で相談すると良いでしょう。

一般的に行われている稗粒腫の治療法としては、

  • 針で刺して角質を取り出す
  • 炭酸ガスレーザー治療

といった方法があります。それぞれの方法について詳しく説明します。

Ⅰ.針で刺して角質を取り出す

稗粒腫も一般的な治療法は、角質を取り出してしまう事です。

稗粒腫は本来とは違う部位に表皮の細胞が出来てしまう事が原因です。正常な部位に出来ればそのまま垢(アカ)となって皮膚から剥がれ落ちていくものなのに、表皮の下に出来てしまうために皮膚に溜まってしまい、盛り上がって稗粒腫となってしまうのです。

この場合、稗粒腫の中にたまっている角質を取り出してあげれば膨らみは消えます。

具体的には注射などに使う針(注射針)で稗粒腫を刺し、そ中に溜まっている角質を押し出してあげると稗粒腫のふくらみを治す事が出来ます。

この方法は外来で簡便に行えますが、

  • あまりに小さい稗粒腫には行えない
  • ちょっと痛い
  • 傷跡が残ってしまう事がある

というリスクもあります。

また根本を取り除いているわけではないため、その時は治ってもまた同部に角質が溜まって稗粒腫が再発する事もあります。

Ⅱ.炭酸ガスレーザー治療

稗粒腫には「炭酸ガスレーザー治療」も有効です。

炭酸ガスレーザー治療とは炭酸ガスを媒質に赤外光を照射する治療法の事で、レーザー光によって皮膚の表面をそぎ落とすような治療になります。

稗粒腫は表皮周辺という比較的浅い部位に生じているため、炭酸ガスレーザーで皮膚表面を稗粒腫ごと削り取ってしまうということです。

根本から削り取ってしまうため、針で押し出す治療法と異なり、再発リスクも低くなります。

炭酸ガスレーザーは病変部を狙って照射する治療法ではありますが、多少正常の皮膚にもダメージを与えてしまうため、治療の際には痛みを伴う事もあります。

炭酸ガスレーザーは効果の高い治療法ですが、

  • 正常皮膚にも多少のダメージを与えるため、軽い痛みを伴う事がある事
  • 保険が効かない事

がデメリットとして挙げられます。

また炭酸ガスレーザー機器は、一般的な皮膚科では置いていない事もあるため、美容皮膚科などを受診した方が確実でしょう。皮膚科を受診する際も事前に炭酸ガスレーザー機器を取り扱っているか確認しておく必要があります。

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