糖尿病の改善には野菜を先に食べればいいというのは本当か?

糖尿病(Diabetes)は血液中の糖分が増えすぎてしまう事によって、全身の臓器が傷付いてしまう疾患です。

すぐに困るような症状が出るわけではないため、つい放置してしまいがちですが、血糖が高い状態を何年も放置してしまうと、徐々に全身の臓器が障害されてしまいます。

このような特徴から糖尿病は「サイレントキラー(静かな殺し屋)」とも呼ばれています。

糖尿病の治療は食事を規則正しくし(食事療法)、適度な運動を続ける(運動療法)が基本となります。加えて、血糖値を下げるようなお薬が用いられる事もあります。

食事療法では、食事のバランスや量も大切ですが、近年では食事を「食べる順序」も大切である事が分かってきました。その1つとして「野菜を先に食べると良い」という事が言われています。

野菜を先に食べると本当に糖尿病に良いのでしょうか。またどのような機序によって糖尿病を改善させてくれるのでしょうか。

今日は血糖値を下げる工夫の1つとして「野菜を先に食べる」という食生活について詳しくみていきましょう。

1.血糖が高いと何が問題なのか

野菜を先に食べる事が糖尿病を改善させるというお話の前に、まずは糖尿病というのはどのような問題を引き起こす疾患なのかを知っておきましょう。

糖尿病は血糖値(血液中の糖分の量)が多くなってしまう疾患です。我が国の糖尿病の患者さんの数は300万人以上と言われており、国民病の1つとなっています。

では、血糖値が高いと何が問題なのでしょうか。

糖分はエネルギー源でもあるため、身体にとって必要なものでもあります。そのため糖分は一概に私たちにとって悪者だというわけではありません。

しかし、このように必要な糖分も、身体の中に過剰に蓄積してしまうと問題を引き起こすようになります。糖分は多すぎると身体にとって毒になるのです。

血糖が高い事によって生じる問題は大きく分けて2つあります。

1つ目は急性期の障害です。血糖が高くなると、

  • 口が乾く
  • 頻尿になる
  • だるさ

などの症状が認められるようになります。また血糖が顕著に高くなると、

  • 意識障害

などが生じる事もあります。

更に血糖が高いと、ばい菌が巣食いやすいため、健常な人よりも感染症にかかりやすくなってしまいます。普通の人よりもばい菌に対する抵抗力が弱くなってしまうのです。

2つ目の問題は、慢性期の障害です。血糖値が高い状態が長期間続くと、身体の種々の臓器が痛んでいくことが知られています。

代表的な障害としては、

  • 高血糖が5年続くと、神経が障害される(しびれ、感覚低下など)
  • 高血糖が10年続くと、目が障害される(糖尿病性網膜症)
  • 高血糖が15年続くと、腎臓が障害される(糖尿病性腎症)

と言われています。

その他にも、血管自体を痛める事によって

  • 脳梗塞(脳の血管が詰まる)
  • 心筋梗塞(心臓を栄養する血管が詰まる)
  • 閉塞性動脈硬化症(足の血管が詰まる)

などの疾患も生じやすくなる事が知られています。

2.野菜を先に食べるとなぜ血糖値が下がるのか

食事の時、野菜を先に食べると本当に糖尿病の改善に効果があるのでしょうか。

結論からいうと、効果はあります。

しかし、その効果はお薬のように強力なものではありません。あくまでも「多少改善させてくれる」というものです。

とはいっても食事は毎日行うものですので、多少でも日々積み重ねていけば大きな差となります。

では野菜を先に食べるとどうして糖尿病に良いのでしょうか。

これは、悦に野菜自体に血糖を下げる作用があるわけではありません。どのような機序によって糖尿病に良い効果をもたらすのかをここでは紹介します。

Ⅰ.食物繊維が過食を抑える

野菜には食物繊維が含まれています。そして食物繊維は主に「セルロース」という炭水化物が主成分となっています。

このセルロースは、腸管内で水分を含んで膨張します。このような特徴から食物繊維は「便秘」にも効果がある事が知られています。

セルロースが水分を含んで膨張すると、腸管を刺激するため、腸管の動きを活発にしてくれるというわけです。また膨張したセルロースが便も取り込むため、固い便が柔らかくなるという作用もあります。

ちなみにこのようなセルロースの特性を利用した下剤には「バルコーゼ」があります。お薬として利用されている事からも、セルロースにこのような作用があるという事が分かりますね。

そしてこのセルロースの「腸管内で膨張する」という特徴は、過食の予防としても使えます。腸管内でセルロースが膨張してお腹が膨れると、お腹がいっぱいになったと感じやすくなり、結果として食事量が増えにくくなるのです。

食事の最初に食物繊維を摂取すると、早い段階で腸管が水分を含んだセルロースにより膨張し、満腹を感じやすいという事です。

Ⅱ.血糖値の上昇が緩やかになる

食物繊維は血糖の吸収を穏やかにするという特徴があります。そしてこれは糖尿病の改善に効果があります。

同じ食事量であっても、急激に糖分が身体に吸収されるのと、ゆっくりと身体に吸収されるのとでは、血糖による身体のダメージは全く異なります。

実際、糖尿病の治療薬に「αグルコシダーゼ阻害薬(αGI)」というお薬がありますが、これらのお薬は、食事の糖分が身体に吸収されるのをゆっくりにする事で糖尿病を改善させています。

【αグルコシダーゼ阻害薬】

ベイスン(一般名:ボグリボース)
グルコバイ(一般名:アカルボース)
セイブル(一般名:ミグリトール)

αGIは最終的には吸収される糖分の量は変わらないにも関わらず、その速度をゆっくりにする事で明確に糖尿病の数値を改善させる事が確認されています。

ここから、糖分をゆっくりと身体に吸収させれば、それだけで糖尿病を改善させる事が出来る事が分かります。

そして食物繊維も、このαGIと同じような作用が期待できます。

食物繊維に含まれるセルロースは、前述したように腸管の中で水を含んで膨張します。そして水を含むとゼリーのようにゼラチン状になり、粘度が高くなります。

実際に前述したバルコーゼという下剤も、水と混ぜるとドロドロになる事が知られています。人によってはバルコーゼは口の中に張り付いてしまうため、飲みづらいとおっしゃられる方もいらっしゃるほどです。

このようにセルロースは粘土が高い物質であるため、腸管内で糖分も吸着するのだと考えられています。そして吸着された糖分はゆっくりと体内に吸収される事になるため、これによって糖尿病を改善させてくれるのです。

3.食物繊維を先に摂取する時の注意点

上記の機序から、食事の最初に食物繊維を摂取すると、

  • 食事量が減り、
  • 食後の血糖値の上昇を緩やかにする

ため、糖尿病の改善に効果があると言えます。

しかしただ野菜を先に食べればいいというわけではなく、いくつか注意点もあります。

Ⅰ.少量の野菜ではあまり意味がない

上記のように野菜に含まれる食物繊維を食事の最初にとる事は、糖尿病の改善に効果があります。

とは言ってもちょっと摂っただけではあまり意味がありません。食物繊維による糖尿病の改善の効果はそもそもが強力な作用ではなく穏やかな作用であるため、ある程度の量を取らないと効果はほとんど得られないのです。

具体的には、摂取する野菜によっても異なってきますが、100g程度の野菜は摂取する必要があるでしょう。

参考までに野菜に含まれる食物繊維の量を紹介すると、

野菜名 食物繊維量(100gあたり)
ごぼう 3.3g
にんじん 2.8g
ブロッコリー 2.6g
キャベツ 2.5g
ほうれん草 2.2g
トマト 1.2g
きゅうり 0.5g

と同じ野菜でも食物繊維の量は異なります。糖尿病の改善のために摂取する場合は、なるべく食物繊維の多い野菜を選ぶようにすると良いでしょう。

ちなみに私たちは1日にどのくらいの食物繊維を摂取すればいいのでしょうか。

厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、食物繊維の目標量は、18歳以上の男性は20g以上/日、女性は18g以上/日となっています。

ここから考えても、1食で6~7gくらいの食物繊維は摂取する事が望まれます。

Ⅱ.野菜以外にも食物繊維は含まれる

「野菜を先に食べると糖尿病の改善に良い」と言われていますが、より具体的に言えば野菜ではなく「食物繊維」が大切だという事が分かります。

という事は別に野菜でなくても食物繊維を多く含んでいる食べ物を最初に取れれば、糖尿病の改善にある程度効果があるという事です。

例えば、

  • 豆類
  • きのこ類
  • 海藻類

なども食物繊維を多く含むため、食事の最初に食べると血糖値の上昇は緩やかになるでしょう。

ただし注意点として、

  • 果物
  • 穀物

などは食物繊維を多く含んではいますが、これらは糖分(炭水化物)も多く含んでいるため、総合的に考えれば血糖値の吸収は緩やかにならないためお勧めできません。

Ⅲ.先に野菜を取れば糖分をたくさん取ってもいいという事ではない

食事の最初に食物繊維を取れば、その後の糖分の吸収が緩やかになるため、糖尿病の改善に効果があるというのは事実です。

しかしだからといって、その後に糖分(炭水化物)をたくさん摂取してしまっては意味がありません。

食物繊維は糖分の吸収を緩やかにするというだけで、糖分の吸収量を減らすわけではありません。

せっかく先に野菜を食べても、その後にたくさんの糖分を摂取してしまえば、結局身体の中に大量の糖分が吸収されてしまい意味がありません。

野菜を先に取るという方法は、あくまでもバランスの良い食生活をした上で行えば緩やかな効果が得られるという方法で、この方法をすればその後にいくら糖分をとってもいいというものではないのです。

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