鉄欠乏性貧血を疑った時に行われる診察・検査にはどのようなものがあるのか

鉄欠乏性貧血は小さなお子様から高齢者に至るまで、幅広い年代の方々に生じうる疾患の1つです。日常の診療でもよく遭遇する疾患の1つで、貧血の中でももっとも多い疾患になります。

貧血とは血液中の赤血球が少なくなってしまう疾患です。赤血球は全身に酸素を送るはたらきをしていますので、これが少なくなると全身の細胞が酸素不足になってしまいます。するとめまいやふらつき、動悸や息切れなどの貧血の症状が出現します。

このような体調不良が出た時に病院を受診した時、医師はどのような診察所見・検査所見から鉄欠乏性貧血を疑うのでしょうか。

また自分自身で「これは鉄欠乏性貧血かもしれない」と疑えるような身体の所見というのはどのようなものがあるのでしょうか。

ここでは鉄欠乏性貧血を疑った時に行われる診察や検査についてお話していきます。

1.鉄欠乏性貧血とは

鉄欠乏性貧血の症状について説明する前に、まずは鉄欠乏性貧血という疾患について見ていきましょう。

鉄欠乏性貧血はその名の通り、体内の鉄分が欠乏してしまう事で貧血になってしまう疾患です。

では「貧血」とはどのような病態なのでしょうか。

貧血というのは血液中の赤血球が少なくなってしまっている状態です。赤血球は酸素と結合する特徴を持った血球で、肺から取り込まれた酸素を全身の組織・器官に送り届けるはたらきがあります。

私たちの身体において、酸素はとても重要な物質です。私たちが日々生命活動を行うためにはエネルギーが必要です。そしてそのエネルギーは栄養素(炭水化物、たんぱく質や脂質など)から取り出されます。

栄養素からエネルギーを効率的に取り出す際に必要なのが「酸素」です。つまり酸素がないとエネルギーの産生が不十分になってしまい、生体活動が十分に行なえなくなってしまうのです。

赤血球は酸素を全身に運んでくれます。この赤血球のおかげで、全身の組織・器官は酸素を利用する事ができ、生きるために必要なエネルギーを産生する事が出来るのです。

何らかの理由で赤血球の量が少なくなると、全身に十分な酸素を届ける事が出来なくなってしまいます。これが「貧血」と呼ばれる状態です。

貧血になると全身の組織・器官が酸素不足によって十分な生命活動を行えなくなるため、身体のだるさや倦怠感、めまいなどが生じます。また心臓は血液量を増やそうと心拍数を上げるため動悸が生じ、肺は一生懸命酸素を取り込もうとするため息切れが生じやすくなります。

次に、なぜ鉄が少ないと貧血になるのでしょうか。

赤血球の中には「ヘモグロビン」というタンパク質がたくさん入っていますが、このヘモグロビンの材料となるのが「鉄」なのです。ヘモグロビンは酸素と結合できる性質を持っており、酸素を運搬するために欠かす事の出来ない重要な物質です。

ヘモグロビンは「ヘム」という色素と「グロビン」というたんぱく質から作られます。そしてヘムを作るには鉄が必要です。

何らかの原因で身体の中の鉄分が不足してしまうと、ヘムが合成できなくなります。するとヘモグロビンが合成できないため、赤血球も少なくなってしまうというわけです。

ちなみに鉄欠乏性貧血では体内の鉄が欠乏しますが、通常私たちは鉄分は食べ物から摂取します。鉄分はレバーや肉、魚、豆類などに多く含まれていますが、食べ物に含まれる鉄分は口から入り、小腸(主に十二指腸)から体内に吸収されます。

小腸から血液中に入った鉄分(鉄イオン)は、血液中に存在する「トランスフェリン」というたんぱく質と結合し、トランスフェリンによって骨髄に運ばれます。

骨髄に到着すると鉄分は赤芽球(赤血球のもとになる細胞)の中に取り込まれます。赤芽球は細胞内で鉄を原料にしてヘモグロビンをたくさん合成します。

細胞内にヘモグロビンをたくさん合成した赤芽球は赤血球に成長し、骨髄から血液中に放出されます。

2.鉄欠乏性貧血で認められる身体所見

次に鉄欠乏性貧血ではどのような所見を呈するのかを見ていきましょう。医師は患者さんのどのような所見をみて、「これは鉄欠乏性貧血かもしれない」と疑うのでしょうか。

検査を行う前に、鉄欠乏性貧血を疑う身体所見について紹介します。

Ⅰ.顔色

鉄欠乏性貧血に限らず、貧血になると血液中の赤血球が少なくなります。

赤血球は文字通り、「赤い色をした血球」ですのでこれが少なくなれば血液の赤みが薄くなるはずです。そうなれば、皮膚の血色も不良になります。

実際、これが一番よく分かりやすいのが顔の血色です。なぜならば顔は皮膚が薄い部位であり、またみなさん日焼けなどをもっとも気にする部位ですので血液の色が反映されやすい部位であるためです。

貧血になると顔色から赤みが消え、青白っぽくなります。いわゆる「顔色が悪い」という状態です。

Ⅱ.疲れやすい

年齢や性別から考えて、体力が低かったり、ちょっとした活動で疲れてしまうような場合は貧血を疑う1つの根拠になります。

貧血は赤血球が少ない事ですが、赤血球は全身に酸素を運ぶのが役割です。酸素は身体が生命活動を行うために必要なエネルギーを作るために必要な物質ですので全身の酸素が少なくなればエネルギー不足となり、少しの活動で身体が疲れてしまいます。

Ⅲ.動悸

貧血になると脈拍が速くなります。これを「動悸」として感じる方もいらっしゃいます。

貧血は赤血球が少ないため酸素を全身に十分に送れなくなります。すると心臓は「血液量を増やす事で酸素を全身に届けなくては」と考え、心拍数を増やす事で全身に回る血液量を増やそうとするのです。

Ⅳ.皮膚や舌・髪の荒れ

貧血のうち、鉄欠乏性貧血は皮膚や粘膜(口腔内や舌など)、髪の荒れが生じる事があります。

なぜならばこれらの部位の細胞を作る際にも鉄が必要になるためです。

体内の鉄が少なくなると、

  • 皮膚が荒れやすい、乾燥しやすい
  • 舌や口腔内が荒れやすい
  • 髪質が悪化しやすい

といった変化が生じる事があります。

Ⅴ.眼瞼結膜が白くなる

貧血になると顔色が悪くなるという話をしましたが、それと同様の理由で、眼瞼結膜も白くなります。

眼瞼結膜というのはいわゆる「下まぶた」の事で、あっかんべーをした時に見える部位の事です。

ここは通常は豊富な血管が通っているため赤く見えます。しかし貧血になってこの部位を通る赤血球が少なくなると、白っぽくなってしまうのです。

貧血を疑うと医師は眼瞼結膜が白くなっていないか確認しますが、このような理由があるのです。

3.鉄欠乏性貧血を疑った時に行われる検査

次に鉄欠乏性貧血を疑った時に病院で行われる検査について紹介します。

鉄欠乏性貧血を診断するために必要な検査は「血液検査」になります。血液検査で次のような所見を認められると鉄欠乏性貧血の可能性が高くなります。

Ⅰ.赤血球の減少

鉄欠乏性貧血は貧血の1つです。そして貧血は身体の中の赤血球が少なくなる事です。

という事は貧血の方の血液検査をすると、赤血球数が減少しています。

赤血球の正常値は年齢や性別によっても異なりますが、380~500万/mm3ほどになります。一般的に赤血球数が300万未満であれば、貧血と考えてよいでしょう。

また貧血ではヘモグロビン(Hb)という数値も低下します。ヘモグロビンというのは赤血球中に含まれるたんぱく質で、酸素と結合して酸素を運搬する役割があります。赤血球の中にはたくさんのヘモグロビンが存在しています。

貧血になれば赤血球が減りますから、当然ヘモグロビンも減ります。

更にヘモグロビンは「ヘム」という血色素と「グロビン」というたんぱく質からなります。そしてヘムは鉄を原料にして作られます。そのため鉄欠乏性貧血になると特にヘモグロビンの低下が目立つようになります。

注意点として、鉄欠乏性貧血を疑った時は赤血球数よりもヘモグロビンを指標にする方が正確です。

もちろん鉄欠乏性貧血では赤血球も低下するのですが、初期の鉄欠乏性貧血では鉄が足りなくてもヘモグロビンの少ない赤血球がたくさん作られてしまうため、これにより見かけ上の赤血球数は正常である事があるためです。

これらの赤血球は酸素を運搬するヘモグロビンが少ないため、数としては正常なのですが「使えない赤血球」ですので酸素を運搬する能力は低下しています。このような見かけ上の赤血球数を指標に判断してしまうと鉄欠乏性貧血を見落としてしまう事があります。

ヘモグロビンは鉄を原料として作られるため、鉄が欠乏していればそもそも作る事が出来ません。そのため鉄欠乏性貧血であればヘモグロビンは初期から低下する事になり、ここからヘモグロビンを指標とした方が鉄欠乏性貧血の検出度は高い事が分かります。

ヘモグロビンは成人男性であれば13g/dl以下、成人女性であれば12g/dl以下で「低い」と考えてよいでしょう。また高齢者であれば11g/dl以下であれば「低い」と考えられます。

Ⅱ.赤血球の大きさの低下

貧血の中での鉄欠乏性貧血の特徴の1つは「小球性低色素性貧血」になるという点です。

これは簡単に言えば「赤血球が小さくなり(小色素性)、血色素も少なくなる(低色素性)」という事です。

正常な赤血球は、中にヘモグロビンがたくさん入っています。対して鉄欠乏性貧血ではヘモグロビンが十分に作れないため、赤血球中に含まれるヘモグロビンの数は少なくなります。

中に入っているものが少なくなれば、細胞はその分小さくなります。そのため「小球性」になります。

またヘモグロビンは「ヘム」という血色素と「グロビン」というたんぱく質からなります。ヘムは赤色を呈する色素ですが、ヘムは鉄が原料となっていますので、鉄が少なければ赤色の色素も少なくなります。そのため「低色素性」になるわけです。

ではこのように赤血球の大きさや色の薄さはどのように判断すればいいのでしょうか。

血液検査の項目では、

  • MCV(平均赤血球容積)
  • MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)

という項目があり、これが正常よりも低くなっていると鉄欠乏性貧血が疑われます。

具体的にはMCVが80以下、MCHCが30以下であれば小球性低色素性と判断されます。

Ⅲ.鉄の低下

鉄欠乏性貧血は体内の鉄分が低下しているわけですから、当然血液中の鉄分(血清鉄)も低下しています。

血清鉄も年齢・性別によって正常値は異なりますが、おおむね50~200μg/dL程度が正常値と考えてよいでしょう。

そして血清鉄が40未満であった場合、体内の鉄が欠乏していると考えられます・

また、鉄は血液中に存在するだけでなく「貯蔵鉄」という形でも保管されています。摂取された鉄の一部は、血液中のアポフェリチンというたんぱく質と結合し、フェリチン(鉄貯蔵タンパク)となり貯蔵されます。

この貯蔵鉄の量を反映する血液検査項目として「血清フェリチン」という値があります。

鉄欠乏性貧血では、このフェリチンの量が低下している事も検査所見の1つです。フェリチンも年齢・性別によって正常値は大きく異なりますが、少なくとも10~20ng/ml程度は健常の方であればあるため、これ以下の場合は貯蔵鉄が少ないと考えてよいでしょう。

ちなみに鉄分が少なくなっていく過程では、一般的には血清鉄よりも貯蔵鉄から先に減っていきます。つまり血清鉄は正常だけどフェリチンが低下している場合、この状態をそのまま放置しているといずれ血清鉄も低下してくる可能性が高いという事です。

反対に鉄欠乏状態の方に十分な鉄を投与した場合は、まずは血清鉄から改善していき、そのあとでフェリチン値が改善していくという経過を取ります。

Ⅳ.鉄結合能の上昇

血液中の鉄は「トランスフェリン」というたんぱく質と結合しています。

通常であれば鉄を見つけるとトランスフェリンはくっつき、そのまま鉄を骨髄に運ぶ役割があります。赤血球は骨髄で作られるため、トランスフェリンは赤血球を作る工場(骨髄)に材料である鉄を運搬してくれるわけです。

身体の中の鉄分が少なくなると、鉄と結合しているトランスフェリンの量も少なくなります。

鉄と結合していないトランスフェリンの量はUIBC(不飽和鉄結合能)と呼ばれます。鉄欠乏性貧血では血清鉄が少なくなるため鉄と結合していないトランスフェリンの量が増えます。つまり、UIBCは上昇するという事です。

一方でトランスフェリンが鉄と結合できる量はTIBC(総鉄結合能)と呼ばれます。鉄が少ない状態ですと「少しの鉄でも見逃さず見つけて骨髄に送りたい!」となるため、トランスフェリンが鉄と結合できる量は高くなります。つまりTIBCは上昇するという事です。

それぞれの関係を式で表すと、

TIBC(総鉄結合能)≒ Fe(血清鉄)+UIBC(不飽和鉄結合能)

という式で表されます。

鉄欠乏性貧血ではFe(血清鉄)は減少しますが、それ以上にUIBC(不飽和鉄結合能)が上昇するため、結果的にTIBC(総鉄結合能)も上昇するのです。

このように、TIBC、UIBCも鉄欠乏性貧血を診断するために有用な検査所見の1つです。

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