ヘモグロビンが低い・少ない時に考えられる原因と治療法

ヘモグロビン値(Hb)は貧血を判定する検査項目の1つで、健康診断や内科の血液検査などでよく測定されています。

ヘモグロビン値が少ないと「貧血」と判定されます。貧血が生じると疲れやすさやめまい・ふらつき、動悸、息切れなどが生じるようになり、生活にも支障を引き起こします。

これらの状態を改善するために、必要に応じて治療が行われます。

ではヘモグロビンが低い時にはどのような原因が考えられ、どのような治療が行われるのでしょうか。

ヘモグロビンが少なくなる原因というのは1つではありません。そのため健康診断や内科的検査で「ヘモグロビンが低値です」と判定されても、どのような原因なのかによって、行われる治療法も異なってきます。

ではヘモグロビンが低い時は、どのような原因が考えられるのでしょうか。またそれぞれどのような治療法が行われるのでしょうか。

ここではヘモグロビンが少ないと判定された時に考えられる主な原因と、その治療法について紹介していきます。

1.ヘモグロビンって何?

本題に入る前に、まずヘモグロビンってそもそも何なのか、というところから考えていきましょう。ヘモグロビンとはどんなものなのでしょうか。また、「赤血球」とは何が違うのでしょうか。

ヘモグロビン(Hemoglobin)というのは、私たちの身体の中に存在するたんぱく質の一種で、主に赤血球の中に存在します。

ヘモグロビンには、他のたんぱく質にはない面白い特徴があります。それは「酸素とくっつく(結合する)」という特徴です。ヘモグロビンのこの特徴は、私たちの身体が効率的に生体活動を行う上で不可欠の能力になります。

私たちの身体は、食事から摂取した栄養素(炭水化物やたんぱく質、脂質など)からエネルギーを取り出し、そのエネルギーを元に呼吸・心拍などといった基礎的な生命活動から、考えたり身体を動かしたりといった高度な活動までを行っています。

これらの活動には多くのエネルギーが必要です。そして実は酸素を利用する事で、栄養素から効率的にエネルギーを取り出す事が出来るようになるのです。

反対に酸素がない状態だとエネルギーを取り出す効率が悪くなり、エネルギー不足になりやすくなります。

つまり、私たちの身体が十分に活動できるようにするためには、酸素を体内に吸い込み、それを身体の隅々の細胞にまで行き渡らないといけません。でないと全身で必要なエネルギーが十分に作られません。

そしてこのはたらきをしてくれるのがヘモグロビンです。

ヘモグロビンは「酸素とくっつく」という性質を持っています。これを利用すれば、酸素を身体の隅々にまで運ぶ事が出来ます。つまり、肺から体内に取り込んだ酸素をヘモグロビンにくっつけ、全身に運べばいいのです。

ヘモグロビンが全身に酸素を届けるには、全身に張り巡らされている「道路」が必要です。

そして道路の役割をするのが「血管」です。ヘモグロビンは赤血球という細胞の中に入って血液に乗り、全身の至るところに酸素を届けているのです。

ヘモグロビンは赤血球の中にたくさん入っています。赤血球は肺から吸い込んだ酸素をヘモグロビンに結合します。そして血液に乗って末梢の組織にたどり着くとそこで酸素を離します。

酸素を受け取った末梢組織は酸素を利用する事で効率的にエネルギーを産生し、生きるために必要な活動を行えているのです。

2.ヘモグロビンの正常値と異常値

ヘモグロビンの正常値はどのくらいなのでしょうか。またどのくらいの数値になったら「低い」と判定されるのでしょうか。

ヘモグロビンの正常値は年齢・性別や状態によって異なりますが、おおむね正常値としては下記のようになります。

【ヘモグロビン(Hb)の正常値】

・成人男性:13.0~16.0g/dL
・成人女性:12.0~15.0g/dL
・高齢者 :11.0g/dL以上
・妊娠女性:11.0g/dL以上

このように女性よりも男性で高く、高齢者や妊娠中では低めとなります。

このように年齢・性別・状態によって正常値が異なりますが、臨床的なざっくりとした印象でいうと、10~11g/dLを切ったら「低い」と考えてよいでしょう。ヘモグロビン値が一桁台になれば精査や治療が必要です。

これ以下の数値になると、動悸・疲れやすさ・息切れといった貧血の症状が認められはじめます。

3.ヘモグロビンが少ない時に考えられる原因と治療法

最後に血液検査で「ヘモグロビンが少ない」という結果が出た時に、考えられる原因についてお話します。

ヘモグロビンは赤血球に含まれるたんぱく質ですから、これが少ないという事は赤血球が少ない「貧血」と呼ばれる状態になります。

貧血が生じる原因は1つではありません。そして、それぞれによって治療法も異なります。貧血の原因の全てをここで詳細に説明することは難しいのですが、日常の診療で見かける事の多い貧血の原因を中心に紹介していきます。

Ⅰ.鉄欠乏性貧血

鉄欠乏性貧血はもっとも頻度の多い貧血であり、ヘモグロビンが低い場合は、まずこの「鉄欠乏性貧血」を疑う必要があります。

鉄欠乏性貧血は文字通り、身体の中の「鉄分」が不足してしまう事で貧血になってしまう疾患です。

実はヘモグロビンを作るためには鉄が必要です。そのため鉄不足になるとヘモグロビンが十分に作れなくなってしまいます。ヘモグロビンが作られないと赤血球も作れないため、貧血になってしまうというわけです。

鉄欠乏性貧血の場合、なぜ鉄が不足しているのかが重要です。

鉄分が不足している原因としては、

  • 鉄の摂取量が少ない(慢性炎症、無胃酸症、偏った食生活など)
  • 鉄の必要量が増えている(妊娠中、成長期など)
  • 鉄の排出が増えている(胃腸からの出血など)

などが挙げられます。

まず鉄分の摂取量が少なくて鉄欠乏性貧血になってしまう状態について紹介します。

慢性的な感染症や慢性炎症性疾患(自己免疫性疾患や膠原病など)で、長期的に身体に炎症が続いていると、鉄の吸収率が落ちる事が知られています。そのため慢性炎症がある方は鉄の摂取量が少なくなりがちです。

またピロリ菌感染などで生じる無胃酸症でも、鉄の吸収率が低下してしまうため、鉄欠乏性貧血になりやすくなります。

食生活が偏っていて、鉄分をほとんど摂取していない場合も当然、鉄欠乏性貧血になります。

次に鉄分の必要量が増えてしまい、鉄欠乏性貧血になってしまう状態について説明します。

妊娠中は母体だけでなく赤ちゃんに行く分の血液も作らないといけないため、鉄分もいつもより多く必要になります。この時、通常量の鉄分しか摂取していないと鉄欠乏性貧血になってしまいます。

また成長期の子供は、鉄に限らず多くの栄養素・微量元素が必要となるため、通常量の鉄分しか摂取していないとこれも鉄欠乏性貧血になりやすくなります。

最後に鉄分がどんどん排泄されてしまい、鉄欠乏性貧血になってしまう状態について説明します。

これは「出血」が原因です。血液中(特に赤血球中)には鉄分が豊富に含まれていますので、これがたくさん失われれば鉄欠乏性貧血になりやすくなります。

皮膚表面から出血している場合は、それをそのまま放置しておく人はいませんので鉄欠乏の状態にまでなる事は稀です。問題は胃腸から出血している場合です。具体的に言えば胃潰瘍や胃がん、大腸がんなどによる出血になります。

胃腸から少しずつ出血が続いている場合は、なかなか気づかれない事も多く、気付かないうちに鉄欠乏性貧血になっている事があります。

鉄が欠乏する原因もこのように様々です。原因をしっかりと突き止め、原因に対する治療を行っていきます。

鉄欠乏性貧血の場合は検査所見で、

  • Fe(血清鉄)、フェリチン(貯蔵鉄)が低下
  • UIBC(不飽和鉄結合能)、TIBC(総鉄結合能)が上昇
  • 小球性低色素性貧血

という所見が得られます。

血液中で鉄分と結合する「トランスフェリン」というたんぱく質があるのですが、UIBCとはトランスフェリンのうち、鉄分と結合していないものの量の事です。

鉄欠乏性貧血になると血液中の鉄分が少なくなるため、鉄分と結合していないトランスフェリンが増えます。そのためUIBCは上昇します。

TIBCとは全てのトランスフェリンがどのくらいあるのかという量です。血清鉄と結合しているトランスフェリンと、鉄分と結合していないトランスフェリン(UIBC)の量の合計です。

鉄欠乏性貧血になると、血清鉄は減るのですが、鉄と結合していないトランスフェリンがそれ以上に増えるため、TIBCも上昇します。

また鉄欠乏性貧血では、赤血球の中に存在するはずのヘモグロビンというたんぱく質が十分に作られなくなるため、赤血球の大きさは小さくなります。

特にヘモグロビンの構成成分のうち「ヘム」という血色素を作るのに鉄分が必要であるため、鉄分不足であるとヘムが少なくなり、低色素性の赤血球になります。

そのため小球性低色素性の貧血の形を取ります。

治療としては原因の除去の他、補助的に鉄製剤の投与を行う事もあります。

Ⅱ.腎性貧血

腎臓からは「エリスロポエチン」というホルモンが分泌されています。

このエリスロポエチンは赤血球の産生を促すはたらきがあります。より具体的にいうと、血球が作られている臓器である骨髄において、赤芽球という未熟な赤血球を赤血球に成長させるはたらきがあるのです。

腎臓に何らかの障害があるとエリスロポエチンの分泌量が減ってしまい、赤血球が作られにくくなります。これを「腎性貧血」と呼びます。

腎性貧血の場合は検査所見で、

  • 腎臓系酵素(BUN、Cr)の上昇
  • 血中EPO(エリスロポエチン)が正常~低値
  • 正球性性色素性貧血

という所見が得られます。

腎臓が障害を受けている事で貧血になっているのですから、腎機能の指標となる酵素であるBUN、Crは高値となります。

また腎性貧血ではエリスロポエチンが正常~低値になります。本来、貧血の状態であれば身体は「赤血球を作らないと!」と考えるため、エリスロポエチンをたくさん分泌するはずで、血中EPOは上昇するはずです。

しかしそのような状態であるにも関わらず、通常量~低量のエリスロポエチンしか分泌されていないという事は、腎臓が障害されている可能性が考えられます。

腎性貧血では赤血球が作られにくくはなりますが、作られている赤血球は正常のものですので、赤血球の大きさや色素は正常です(正球性正色素性)。

障害されてしまった腎臓の機能は、元の状態に改善させることが難しい事も多く、治療としてはエリスロポエチン製剤(ESA製剤)の注射が行われます。

またこれ以上腎臓を悪化させないために生活習慣、食生活の改善やお薬の調整も必要になります。

Ⅲ.悪性貧血

悪性貧血は、葉酸やビタミンB12などが欠乏する事で生じる貧血です。

胃炎や胃の術後によって胃内で「内因子」と呼ばれる物質の分泌が低下し、これによって葉酸やビタミンB12を体内に吸収できなくなる事で生じます。

葉酸やビタミンB12は赤血球のDNA合成において必要な物質であり、これが欠乏すると大型赤芽球と呼ばれる異常な未熟赤血球が作られてしまいます。そのため悪性貧血は「巨赤芽球性貧血」と呼ばれることがあります。

悪性貧血の場合は検査所見で、

  • 葉酸あるいはビタミンB12の低下
  • 神経症状、精神症状を併発している
  • 大球性正色素性貧血である

という所見が得られます。

悪性貧血の原因は葉酸あるいはビタミンB12の欠乏ですので、検査所見においていずれかの減少が認められます。

また葉酸やビタミンB12が欠乏すると貧血となるだけでなく、神経症状や精神症状もきたす事が知られており、このような症状を合併している事も悪性貧血を疑う1つの所見となります。

具体的には、知覚障害や深部腱反射亢進、意識レベルの低下や認知機能の低下など様々な精神・神経症状が生じます。

なお「悪性」という名称がついているため重篤な疾患だと考えられがちですが、現在では速やかに適切な治療を行えば治療は可能な疾患です。

悪性貧血は以前は原因が分かっておらず治療法がなかったため、このような名称がつけられ、その名残りが現在でも残っているのです。

Ⅳ.溶血性貧血

溶血性貧血は、日常の臨床ではそこまで多く見かける疾患ではありません。

これは、何らかの原因によって赤血球が壊されてしまう(=溶血)ために貧血になってしまう疾患です。

溶血性貧血にもいくつかの種類がありますが、

  • 遺伝性
  • 自己免疫性

などが原因で生じます。

自己免疫性というのは、本来は異物が体内に侵入してきた時にそれを攻撃するシステムである「免疫系」に何らかの異常が生じてしまい、異物ではなく自分の細胞を攻撃してしまうようになってしまう事です。

免疫系が赤血球を攻撃してしまうようになると、赤血球はどんどん破壊されてしまうため少なくなり、貧血になります。

溶血性貧血の治療は原因によって異なりますが、免疫を抑えるステロイド製剤などが投与される事があります。

Ⅴ.その他

その他頻度は稀ですが、貧血の原因として、

  • 再生不良性貧血
  • 骨髄異形成症候群、白血病

などがあります。

これらの疾患は重篤な疾患ですので、頻度は稀であるものの決して見落とさないように常に念頭においておく必要があります。

再生不良性貧血は、赤血球をはじめとした血球が作られる部位である「骨髄」に低形成・線維化が生じてしまう疾患です。これによって、赤血球・白血球・血小板のすべての産生が低下し、全血球数が低下してしまいます(これを汎血球減少と呼びます)。

重篤な疾患であり、重症度にもよりますが、治療は骨髄移植などが検討されます。

骨髄異形成症候群や白血病は、いわゆる「血球系のガン」です。骨髄中や血液中に癌細胞が増えるため、その分正常な赤血球・白血球・血小板は減少し、貧血が生じます。

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