成人に手足口病は発症するのか

手足口病(Hand Foot Mouth Disease)は、

  • 手のひら
  • 足の裏
  • 口腔内

に水疱が生じる疾患です。

ウイルスの感染が原因でその多くは(90%以上)5歳以下の乳幼児に発症します。手足口病と言えば「子供の病気」というイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。

しかし、手足口病は「子供に発症しやすい」特徴を持つだけで、子供にしか感染しない特殊なウイルスではありません。条件がそろえば成人にだって発症する事は十分ありえます。

成人で手足口病が発症するのはどのような時でしょうか。また成人に手足口病が発症してしまった場合、治療に当たって注意点はあるのでしょうか。

ここでは手足口病について、主に成人に感染した場合に考えるべき事や治療の注意点などを紹介させていただきます。

1.手足口病とは

そもそも手足口病とはどのような疾患なのでしょうか。

手足口病(Hand Foot Mouth Disease)は病名の通り、

  • 手のひら(手掌)
  • 足の裏(足蹠)
  • 口腔内

に水疱が出来る疾患です。この3か所に独特の水疱が認められれば、経験を積んだ医師であればほぼ確実に手足口病と診断できます。

その他にも膝の裏や臀部などに水疱が出る事もあります。

その原因はウイルス感染で、コクサッキーウイルスという種類のウイルスが体内に感染する事が原因です。

原因となるウイルスは1種類だけではなく、

  • コクサッキーウイルスA16
  • コクサッキーウイルスA4
  • コクサッキーウイルスA5
  • コクサッキーウイルスA9
  • コクサッキーウイルスA10
  • コクサッキーウイルスB2
  • コクサッキーウイルスB5
  • エンテロウイルス71

などが原因となります。

特に多いのはコクサッキーウイルスA16です。

複数のウイルスが原因となるという事は、一度かかってもまた発症する可能性があるという事です。何らかのウイルスに感染して手足口病を発症した事があれば、そのウイルスに対する抗体は出来ますが、次に別のウイルスに感染してしまえばその別のウイルスに対する抗体は持っていないためやはり発症してしまうのです。

感染経路としては、風邪(急性上気道炎)などと同じく鼻や口からウイルスを吸い込むことで感染します。また手足口病にかかっている患者さんの痰や便などを触り、その手で何かを食べる事で感染してしまう事もあります(接触感染)。

ウイルスは体内侵入後、体内で増殖していき3~5日ほどで上記の手・足・口の症状が認められます。

感染症ですので発熱を認める事もあります。また鼻や口から侵入しますので、初期には咽頭痛などの症状を認める事もあります。

その後、典型的には、

  • 手のひら(手掌)
  • 足の裏(足蹠)
  • 口腔内

に特徴的な水疱を認めます。まず手のひらから発症する事が多く、2/3程度の方ではこの3か所に水疱が出現しますが、すべてに出ない例もあります。

手足口病で認められる水疱は、楕円形で、長軸が皮膚紋理(皮膚の溝)に沿っています。色は暗赤~紫色で、表皮の剥離などは伴わないのが特徴です。

原因ウイルスをやっつける薬はありませんので、治療としては安静にして栄養・水分をしっかりとって、自分の免疫力(病原菌と闘う力)で治していくしかありません。

通常は1週間もすれば回復しますが、まれにウイルスが中枢神経にまで侵入してしまい髄膜炎を起こす事があります。髄膜炎は特にエンテロウイルス71で起こりやすく、中枢神経所見(意識レベル低下、けいれんなど)を認める場合は入院加療が必要になります。

2.成人が手足口病にあまりかからないのは何故か

手足口病はウイルス感染が原因です。

原因ウイルスを鼻や口から吸い込んでしまう事でウイルスが体内に侵入し、増殖して発症します。

このような感染経路であれば、子供だけでなく大人でも発症しそうなものですが、手足口病の多くが子供に発症するのは何故でしょうか。

これはいくつかの理由があります。

Ⅰ.子供は免疫力が未熟であるため

手足口病の原因となるコクサッキーウイルスは、それほど感染力が強いウイルスではありません。

そのため成人の体内に侵入しても、成人であれば自分の免疫力(病原菌をやっつける力)でやっつけてしまうため症状が発症しにくいのです。

一方で乳幼児はまだ免疫の発達が未熟で、成人ほどに病原菌をやっつける力はついていません。そのため成人と比べるとより発症してしまいやすいのだと考えられます。

Ⅱ.乳幼児は何でも口に入れてしまうため

手足口病の90%以上は5歳以下の乳幼児に発症します。

この年代の子は、なんでも口に入れてしまいがちです。食べ物のみならずおもちゃなどをなめたり口の中に含んだりしてしまい、慌てた事のあるお母様も多いでしょう。

何でも口に入れてしまいがちという事は、口に入れたものにウイルスが付着していた場合、そのウイルスが体内に侵入しやすくなるという事です。

成人はこのような事はしませんので、これも子供で手足口病が発症しやすい理由の1つとなります。

Ⅲ.集団生活で適切な感染予防が行いにくいため

子供は幼稚園や保育園などで、他の子と近い距離で過ごす事が多くなります。

手足口病は、飛沫感染(感染者の咳やくしゃみなどでウイルスが空気中を舞い、それを周囲の人が吸い込むことで発症する)をするほか、接触感染(感染者の痰や便に触れ、その手で食べ物を食べたりすると発症する)で感染します。

集団生活では飛沫感染や接触感染が生じやすいため子供に発症しやすいのです。

もちろん成人も会社で集団生活を行っていますが、成人の場合は感染者はマスクをしたり、あまりに体調がおかしい時は休んだりと対策を自分で取ります。また周囲の人も体調が悪い人が居たらうつらないように距離を取ったり、マスクやうがいで感染予防をしたりと対策を取ります。

幼稚園や保育園でも、もちろん保母さんや幼稚園の先生は感染予防を気を付けてはくれていますが、当の本人たちには感染予防の概念はないため、やはり成人の集団生活よりは感染が蔓延しやすいのです。

Ⅳ.抗体がないため

あるウイルスが身体に侵入して悪さをすると、私たちの身体はそのウイルスをやっつける「抗体」というものを産生します。

この抗体はウイルス感染が治癒した後でも、免疫細胞によって記憶されます。これによって次に同じウイルスが侵入してきたときに、すぐに抗体を産生して再感染を防ぐことが出来るのです。

成人は少なくとも20年以上生きているわけですので、その中でコクサッキーウイルスやエンテロウイルスに感染した既往がある場合が多く、この場合では一度感染したウイルスが体内に侵入してきてもすぐに抗体が産生されるため、ウイルスは増殖しにくくなっており、発症もしにくくなります。

一方で子供は、どのウイルスも初感染(初めての感染)であるため記録されている抗体はなく、抗体産生にまで時間がかかるため成人よりも発症しやすくなります。

3.成人の手足口病の注意点

手足口病のほとんどは乳幼児に発症します。しかし成人で発症しないわけではありません。

前項のような理由によって成人には「発症しにくい」というだけです。

逆に言えば前項の理由が該当しない場合は成人でも発症してしまう事があります。では最後に成人で手足口病が発症した時の注意点をお話させていただきます。

Ⅰ.免疫力の低下はないか

成人の体内に多少のコクサッキーウイルスが体内に侵入しても、通常であれば自分の免疫力でやっつけてしまえるため症状発症までに至らない事がほとんどです。

しかしそれでも発症してしまうという事は、「免疫力が低下していないか」という事は念のため疑う必要があります。

何らかの原因によって免疫力が低下していれば、普段であればやっつける事が出来るウイルスをやっつけられなくなってしまうからです。

免疫力が低下する状態としては、

  • 寝不足
  • 過労
  • 栄養の偏り
  • 精神的ストレス

などが挙げられます。

このような状態にある方は免疫力低下だけでなく、疲労感や集中力低下・情緒不安定なども認められる事が多いため、思い当たる節のある方は免疫力を回復させるために生活習慣の改善を行うようにしましょう。

また疾患としては、

  • 糖尿病
  • 悪性腫瘍(ガン)

などが背景にあると免疫力は低下します。「最近体調を崩しやすい」「風邪をひきやすくなった」など免疫力が持続的に低下している方は一度病院でこれらの基礎疾患がないか検査を受ける事が望ましいでしょう。

Ⅱ.重症化に注意

手足口病の原因ウイルスは、通常であれば成人は自分の免疫力でやっつけられる事が多く、そのために体内に侵入しても症状が発症する頻度は少なめです。

しかし、それでも発症してしまった場合は「ウイルスの増殖力・増殖速度が極めて強い」という可能性が考えられます。

つまり成人の免疫力でも抑えられないくらいのウイルス量の感染が生じている可能性があります。

このような場合、症状は重篤化しやすいので注意が必要です。「成人の手足口病は重篤になる事が多い」と言われますが、これは正確に言えば「成人でも発症してしまうほどのウイルス量になっているため」です。

手足口病は通常であれば1週間もすれば治癒する疾患です。しかし頻度は稀ながら脳炎・髄膜炎(脳などの中枢神経にウイルスが感染してしまう事)を起こす事もありますので、一定の注意をして加療していくようにしましょう。

中枢神経症状(嘔気、意識レベル低下、けいれんなど)が認められる場合は入院加療が必要になる事もあります。

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