前立腺肥大症で痛みが生じた時に考えるべき事

前立腺肥大症(BPH:Benign Prostatic Hypertrophy)は、主に中年以降の男性に生じる疾患です。

その名の通り「前立腺」という臓器が肥大してしまう疾患です。前立腺は男性にしかない臓器ですので、前立腺肥大症は男性にしか生じない疾患です。

実は前立腺は加齢と共に少しずつ肥大していくのが普通です。そのため高齢者では高い頻度で前立腺の肥大が認められます。しかし前立腺が肥大すれば全員が前立腺肥大症となるわけではありません。

前立腺の中には尿道(尿の通り道)が通っているため、前立腺が肥大すると尿が出にくくなる事があります。これは排尿障害と呼ばれ、排尿障害が生じると「前立腺肥大症」として治療が必要になります。

前立腺肥大症では「尿が出にくい」「残尿感がある」といった排尿障害が主な症状になりますが、前立腺肥大症の患者さんから「最近、排尿時に前立腺の当たりに痛みがあるんだけど・・・」と相談を受ける事があります。

果たして前立腺肥大症によって痛みが認められる事があるのでしょうか。また前立腺部のあたりの痛みを認めた場合は、どのような状態を考え、どのような対策を取ればよいのでしょうか。

ここでは前立腺肥大症で痛みが生じるのかどうかと、前立腺部周辺に痛みが生じた場合に考えるべき事についてお話していきます。

1.前立腺肥大症とは

前立腺肥大症で痛みが生じるのかを考える前に、まず簡単に前立腺肥大症という疾患について見ていきましょう。

前立腺肥大症(BPH:Benign Prostatic Hypertrophy)とは、前立腺という臓器が肥大してしまう疾患です。

では前立腺って何でしょうか。

前立腺(ぜんりつせん)というのは、男性にのみある臓器です。

下腹部にあり、おしっこをためる臓器である「膀胱(ぼうこう)」の真下にあります。

前立腺

膀胱からは尿道という管が出ており、この尿道を通っておしっこは身体の外に排出されるのですが、前立腺はこの尿道を囲むように位置しています。

前立腺がどのようなはたらきをしているのかは、まだ全ては分かっていないところもありますが、男性に特有の臓器である事から主に男性機能に関係していると考えられています。

前立腺は「前立腺液」という分泌液を造るはたらきがあります。これは精巣で作られた精液と混ざり、精子の遊走を助ける事で精子の活性を高めます。ちなみに精液の特有の匂いは、この前立腺液が発している匂いになります。

通常の前立腺は20gほどの重さであり、その大きさはよく「クルミ大」「栗の大きさ」と表現されます。

その構造は、内側の「内腺」と外側の「外腺」に分けられ、前立腺肥大症では「内腺」が肥大していきます。前立腺の内側が肥大していくと、前立腺の中を通っている尿道が圧迫されていくため、前立腺肥大症では排尿障害(尿が出にくくなる症状)が生じます。

また尿が全部出切らないため残尿感が生じたり、残った尿が膀胱を刺激する事により頻尿が生じる事もあります。

これが前立腺肥大症という疾患です。

2.前立腺肥大症で痛みは生じるのか

前立腺肥大症の主な症状は、「排尿障害」になります。

これは肥大した前立腺が尿道を押しつぶしてしまう事で、

  • 尿が出にくくなる
  • 尿の勢いがなくなる
  • 尿が全て出切らず、残尿感が残る

といった症状の事になります。

またこのような状態が続くことで膀胱が刺激されて、二次的に頻尿(排尿の回数が増える)が生じる事もあります。

これらの症状は前立腺肥大症の基本的な症状になります。

では前立腺肥大症で痛みが生じる事はあるのでしょうか。

前立腺肥大症は良性腫瘍に分類されます。確かに臓器が肥大しているため、前立腺の細胞が過度に増えてしまっているのですが、、これは癌などの悪性細胞の増殖ではありません。前立腺肥大症では、正常な前立腺の細胞が増殖しているだけで、これは「過形成」と呼ばれ良性腫瘍に認められる細胞の増殖になります。

もしこれが癌のように悪性細胞の増殖であれば、周囲の正常細胞を傷付けて増殖していくため痛みが生じる事がありますが、前立腺肥大症のような過形成では基本的に痛みが生じる事はありません。

そのため基本的には前立腺肥大症で痛みが生じる事はないという事が出来ます。

つまり、前立腺肥大症の方に同部の痛みが生じた場合は、前立腺肥大症以外の別の病態が生じていると考える必要があります。

3.前立腺肥大症で痛みが生じた時に考えたい事

前立腺肥大症が直接同部に痛みを引き起こす事はないという事をお話しました。

しかし直接痛みは引き起こさなくても、前立腺の肥大が間接的に関わって膀胱や前立腺部に痛みが生じる事もあります。

前立腺肥大症の方に痛みが生じた場合は、まずして頂きたい事は主治医に早めに相談する事です。主治医に相談すれば、主治医が適切な対応をしてくれますのが、ここでは前立腺部に痛みが生じた時というのは、どのような事が考えられるのか、代表的な原因を紹介させていただきます。

Ⅰ.尿閉

前立腺肥大症は、前立腺の細胞の良性の増殖(過形成)であるため、基本的にはこれによって痛みが生じる事はありません。

しかし肥大した前立腺が尿道を「完全にふさいでしまう」と話は変わってきます。

このように尿道が完全に閉塞した状態を「尿閉」と呼びますが、前立腺が尿道を完全にふさいでしまうと尿は出口がなくなるため、膀胱に溜まり続けます。

膀胱はある程度尿を溜められるように作られていますが、それでも400~500mlが限界です。健常者の1日の尿量はおおよそ1,000mlちょっとであるため、尿閉になれば半日も経たないうちに膀胱は限界に達します。

こうなると膀胱がパンパンに拡張してしまうため、膀胱が引き伸ばされる事による下腹部痛が生じます。

尿閉になってしまった場合は、下腹部がパンパンに張っており、そこを押すと患者さんは痛がりますので診断は難しくありません。更に超音波を当てると膀胱が著明に拡張しているためすぐに分かります。

尿閉が生じた場合は、緊急的に尿を出してあげないといけませんので尿道カテーテルを挿入する必要があります。

Ⅱ.尿路感染症

前立腺肥大症の方は、尿の流れが悪くなっており、その分だけ尿がよどみやすくなっています。

これは尿中に細菌が繁殖しやすい環境になっているという事です。つまり、前立腺肥大症の方は尿路感染症にかかりやすい傾向があるという事が出来ます。

尿路感染症にかかると、尿道・膀胱の細胞内に細菌が侵入するため、この時に細胞に炎症が生じて痛みを感じる事があります。

尿路感染症で特に生じやすいのは排尿時痛(排尿時の痛み)です。

尿路感染症の場合、細菌が尿道や膀胱に感染していますので、それ以外にも、

  • 発熱
  • 頻尿(細菌が膀胱壁を刺激するため)

などの症状も生じやすく、これらの症状も診断の決め手になります。

尿路感染症が生じた場合は、水分の摂取量を増やし、また抗生物質を服用する事で細菌をやっつける事が治療になります。

Ⅲ.前立腺炎

前立腺炎は、前立腺肥大症とは全く異なる疾患で、前立腺に炎症が生じる疾患です。

炎症は痛みを引き起こすため、前立腺炎が生じると同部に痛みを感じる事があります。

前立腺炎は尿路感染症と同じく細菌の侵入によって生じる事もありますが、それ以外にも物理的に前立腺が刺激される事で生じる事もあります。

例えば、

  • 運転・デスクワークで座っている時間が長い
  • ストレス、疲労
  • 過度な飲酒

なども原因となります。

前立腺炎の診断には、直聴診という肛門に指を入れる検査が有効です。直聴診で前立腺を押すと正常な前立腺の硬さであるものの痛みが生じる場合は前立腺炎の可能性があります(異常に硬い場合は後述の前立腺がんの可能性も出てきます)。

前立腺に炎症が生じているため、その部位を触ると痛みを感じるわけです。

またPSAという血液検査で分かる数値が高値となるのも特徴です。

治療は細菌感染が疑われれば抗生物質を使います。生活習慣が原因であれば生活習慣の改善も指導されます。

Ⅳ.前立腺がん

前立腺肥大症と前立腺がんは異なる疾患であり、前立腺肥大症の方が前立腺がんになりやすいという事はありません。

前立腺肥大症は良性の疾患であるため、困る症状は生じるものの疾患そのものが命に関わるような事はありません。しかし前立腺がんは悪性腫瘍であり、放置しておけば命に関わります。

そのため、前立腺周辺の痛みがある場合は、前立腺がんではないかは否定しておく必要があります。

前立腺がんは悪性のがん細胞が前立腺に発症し、周囲の正常細胞を障害しながら増殖していく疾患です。そのため前立腺部に痛みが生じる事もあります。

前立腺がんは直聴診で硬いがん組織を触れる事で疑われる他、血液検査でのPSA測定も有効です。また超音波検査やMRI検査などで画像的評価が行われる事もあります。

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