前立腺肥大症はどのような原因で生じるのか

前立腺肥大症(BPH:Benign Prostatic Hypertrophy)は、主に中年以降の男性に生じる疾患です。

排尿困難(おしっこが出にくい)という症状が主ですが、それ以外にも頻尿や残尿感などが生じる事もあり、症状の程度によっては生活への支障が生じる事もあります。

前立腺肥大症はその名の通り、「前立腺」という臓器が肥大してしまう疾患です。前立腺は男性にしかない臓器であるため、前立腺肥大症は男性にしか生じない疾患です。

この前立腺肥大症が発症してしまう原因には、どのようなものがあるのでしょうか。

ここでは前立腺肥大症が発症してしまう原因についてお話していきます。

1.前立腺肥大症とは

前立腺肥大症が発症してしまう原因について見ていく前に、簡単に「前立腺肥大症とはどのような疾患なのか」を勉強しましょう。

前立腺肥大症(BPH:Benign Prostatic Hypertrophy)とは、前立腺という臓器が肥大してしまう疾患です。

では前立腺って何でしょうか。

前立腺(ぜんりつせん)というのは、男性にのみある臓器です。

下腹部にあり、おしっこをためる臓器である「膀胱(ぼうこう)」の真下にあります。

前立腺

膀胱からは尿道という管が出ており、この尿道を通っておしっこは身体の外に排出されるのですが、前立腺はこの尿道を囲むように位置しています。

前立腺がどのようなはたらきをしているのかは、まだ全ては分かっていないところもありますが、男性に特有の臓器である事から主に男性機能に関係していると考えられています。

前立腺は「前立腺液」という分泌液を造るはたらきがあります。これは精巣で作られた精液と混ざり、精子の遊走を助ける事で精子の活性を高めます。ちなみに精液の特有の匂いは、この前立腺液が発している匂いになります。

通常の前立腺は20gほどの重さであり、その大きさはよく「クルミ大」「栗の大きさ」と表現されます。

その構造は、内側の「内腺」と外側の「外腺」に分けられ、前立腺肥大症では「内腺」が肥大していきます。前立腺の内側が肥大していくと、前立腺の中を通っている尿道が圧迫されるため、排尿障害(尿が出にくくなる症状)が生じます。

また膀胱を刺激する事により頻尿が生じたり、排尿後の残尿感が生じる事もあります。これが前立腺肥大症です。

2.前立腺肥大症の原因となる因子

ではこの前立腺はなぜ肥大してしまうのでしょうか。

ここでは現時点で分かっている前立腺肥大症の代表的な要因を紹介します。

Ⅰ.加齢

前立腺肥大症の原因となるもっとも大きい要素は「加齢(年を重ねる事)」です。これは誰もが避ける事が出来ないものです。

実際、前立腺肥大症にまでは至らなかったとしても、年を取るとともに前立腺はある程度大きくなっていくのが普通です。50歳未満の方の前立腺の正常な体積は25ml以下と言われていますが、これが60歳以上では30ml以下にまで増えます。

前立腺肥大症の原因の1つが加齢であるため、前立腺肥大症は年齢が高くなるほど罹患率(その病気にかかっている人の割合)は高くなります。

50代の罹患率は約40~50%であり、80代になるとその値は90%以上にまで上昇します。

つまり男性であれば年を取るとともに、誰であっても前立腺肥大症になるリスクがあるという事です。

Ⅱ.遺伝

前立腺肥大症は、遺伝の影響もある事が分かっています。

父親に前立腺肥大症の手術の既往がある場合、そうでない場合と比べて子供が前立腺肥大症に罹患する率は有意に高まる事が報告されています。同様に兄弟に前立腺肥大症の手術歴がある場合、他の兄弟が前立腺肥大症に罹患する率もそうでない場合と比べて高まる事も報告されています。

双子(双生児)を対象にした研究においても、一卵性双生児(児の遺伝子がほぼ同じ)と二卵性双生児(児の遺伝子は異なる)においては、片方が前立腺肥大症であった場合、もう片方も前立腺肥大症を発症する率は、一卵性双生児の方が二卵性双生児よりも3倍も高い事が示されています。

具体的に「この遺伝子が前立腺肥大症の原因遺伝子だ」というものはまだ特定されていませんが、このような調査から前立腺肥大症には遺伝も影響している事が間違いないと考えられていす。

Ⅲ.合併症

元々の基礎疾患として、

  • 肥満
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 脂質異常症
  • 性機能障害

などがあると前立腺肥大症が発症しやすくなります。

とは言ってもこれらの疾患が直接、前立腺肥大症を引き起こすわけではありません。これらの疾患に長期かかっていると前立腺肥大症が生じやすい下地ができてしまうのです。

例えば肥満や脂質異常症(高脂血症)は、皮下や臓器に脂肪が沈着してしまうことで全身に慢性的な軽い炎症が生じてしまう事が分かっています。この炎症は前立腺にも生じるため、炎症によって前立腺が刺激されます。そして刺激された前立腺は肥大してしまいます。

また糖尿病(2型)の方は、血液中の糖が多くなっているため、血液中の糖を下げるホルモンである「インスリン」の分泌量も多くなります。しかし過度なインスリンの分泌は、交感神経を活性化させてしまう事が知られています。

交感神経が活性化すると、膀胱の平滑筋を刺激しやすくなり、これによって前立腺も刺激され、前立腺の肥大が進行していきます。

性機能障害が生じると、身体は「精液をたくさん作らないと!」と頑張ろうとするため、前立腺液を作るために前立腺も刺激されます。前立腺が刺激されれば、肥大しやすくなってしまうのです。

このように前立腺を刺激するような基礎疾患があり、それに長期間罹患していると、前立腺肥大症は生じやすくなります。

Ⅳ.食べ物

食事は前立腺の肥大にそこまで大きく影響するわけではありませんが、多少の影響があります。

とは言っても、前立腺を肥大させやすい食べ物があるわけではありません。そうではなく「この食べ物が少ないと、前立腺肥大を抑える力が弱くなる」という食べ物があるのです。

例えば、野菜や豆類などに含まれている「ポリフェノール」は、体内で女性ホルモンと似たはたらきをします。

男性ホルモンの量が多いと前立腺は肥大しやすくなる事が分かっています。ポリフェノールをたくさん摂取すると女性ホルモン様の作用が体内で増えるため、男性ホルモン様の作用が相対的に弱まり、これによって前立腺も肥大しにくくなるのです。

Ⅴ.タバコ(喫煙)はあまり影響しない

以前はタバコ(喫煙)も前立腺肥大症の原因になると考えられていました。しかし近年の研究ではタバコと前立腺肥大症に、そこまで直接的な関連はないのではないかと考えられています。

3.前立腺肥大症が発症する機序

最後に少し難しい話になりますが、前立腺肥大症が発症する時に私たちの体内ではどのような変化が生じているのかを紹介します。

前立腺肥大症は前項で説明したように、

  • 加齢
  • 遺伝
  • 食事
  • 合併症

などの要因によって生じやすくなります。

より詳しくみていくと、これらの要因によって前立腺の細胞の増殖が生じてしまう事が前立腺肥大症の根本的な原因です。

前立腺肥大症は、「肥大症」とまるで前立腺が大きくなっていくような名称にはなっていますが、正確に言えば「肥大」というよりは前立腺細胞の「過形成」「増殖」というのが正しい表現になります。

前立腺細胞の増殖が、前立腺が刺激された時に生じます。

では前立腺が刺激される時というのはどういう時かというと、

  • 男性ホルモンの増加
  • 前立腺での炎症

などによって前立腺は刺激され、それに伴い前立腺の細胞が増殖してしまうのです。

ではこの2つの原因について詳しく見ていきましょう。

男性ホルモンが増えると、男性ホルモンは前立腺を刺激して前立腺細胞の増殖を促します。そのため男性ホルモンの量が増えたり、男性ホルモンの活性が高まる事は前立腺肥大症のリスクになります。

しかし男性ホルモンの分泌量というのは、人によって大きな差はありません。では男性ホルモンの量が人によって多かったり少なかったりするのはどうしてかというと、男性ホルモンの活性を抑えるような物質を摂取しているかどうかになります。

男性ホルモンのはたらきを抑える代表的な食事には、先ほども説明したように「ポリフェノール」があります。これは野菜や大豆、穀物などに多く含まれます。ポリフェノールは体内で女性ホルモン様の作用をするため、男性ホルモンのはたらきを相対的に抑え、前立腺の肥大を抑えます。

また「亜鉛」も男性ホルモンのはたらきを抑える作用があると考えられています。

更に亜鉛は精液にも含まれている成分であり、性欲を適正に亢進させたり精液の量を増やす作用もあります。

亜鉛が足りないと精液が十分に作れなくなるため、身体は「精液を作れ!」と精巣や前立腺を刺激するようになります。そして前立腺が刺激されると肥大していってしまうのです。

このように亜鉛不足だと男性ホルモンのはたらきを抑えにくくなるほか、前立腺が刺激されやすくなるため前立腺が肥大しやすいのです。

亜鉛を含む代表的な食べ物としては、

  • カキ(牡蠣)
  • カニ、貝
  • レバー
  • 肉(牛肉)

などが挙げられます。

またビタミンB6が亜鉛を吸収するのに必要であるため、ビタミンB6の摂取も間接的に前立腺の肥大を抑えてくれます。

ビタミンB6は、

  • 魚(赤身)
  • ピーナッツ

などに多く含まれています。

これらの摂取量が少ないと男性ホルモンのはたらきを抑えにくくなり、前立腺が肥大しやすくなります。

また前立腺に炎症が生じても前立腺細胞が刺激されるため、前立腺細胞の増殖が生じます。例えば、肥満の方や脂質異常症の方は血液中の脂質が高値となっており、これは身体の各臓器に軽微な炎症を生じさせる事が知られています。

このような状態になると前立腺にもやはり炎症は生じるため、その刺激によって前立腺が肥大しやすいのです。

このように男性ホルモンの作用、そして前立腺の炎症などによって前立腺が刺激される事で前立腺肥大症は発症してしまうのです。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする