野球肘が生じる機序と症状・治療法

野球肘(baseball elbow)は肘関節の酷使によって生じる肘の炎症です。

特に投球で肘を酷使する野球のピッチャーに生じやすい事から「野球肘」と呼ばれていますが、発症するスポーツは野球だけではありません。テニス選手、やり投げ・砲丸投げ選手など、肘に負荷がかかるスポーツでは生じる可能性があります。

野球肘はその多くが10代の未成年に生じます。適切に治療すれば多くは治癒しますが、放置して肘を使い続けたりしてしまうと治りにくくなります。

疾患に対する理解不足から、野球肘が発症しているのに無理して投球を続けたり、完全に治っていない段階で投球を再開してしまうなどで難治となってしまうこともあり、野球少年の将来を守るためにも本人だけでなく周囲の大人(親や少年野球の監督など)が正しく病態を理解する事が大切になります。

野球肘は、どのような原因で生じ、どのような症状が認められ、どのような対処法があるのでしょうか。

今日は野球肘についてお話させていただきます。

1.野球肘とは

野球肘(baseball elbow)は、野球をしている人に多く認められる肘の炎症です。

投球を繰り返す事で肘に過度の負担がかかって生じるため、野球をしている人の中でも、特に「投手(ピッチャー)」に発症します。また時に「捕手(キャッチャー)」に発症する事もあります。

ほとんどが10代に発症しますが、これは10代はまだ骨が未成熟だからです。この年代の子の骨はまだ十分に成長しきっていないため、骨の端には成長軟骨という柔らかい部分があり、この部位が身体が成長するにつれて伸びていきます。成長軟骨は柔らかいため、過度な投球などで負荷がかかるとダメージを受けやすいのです。

野球肘を発症してしまっても、初期の段階で適切に治療すれば多くはきちんと治癒します。しかし中には肘が痛いのに無理して投球を続けたり、焦りから十分に治っていない段階で投球を再開したりしてしまったりするケースも見られ、このようなケースでは難治となってしまう事もあります。

難治例では野球に復帰できなくなるケースもあり、適切な理解を持っていないと、その子の選手生命・将来を潰してしまう事にもなりかねません。

野球肘は本人だけでなく、周囲の親や監督などが正しく理解し、適切に治療を行う事が大切です。

2.野球肘が発症する原因は?

野球肘はどのような原因で生じるのでしょうか。

野球肘は投球などの肘を使う動作によって、肘に過度な負荷が生じる事で発症します。

具体的に投球によって肘関節にどのような負荷が生じるのかを見ていきましょう。

一般的な野球選手の投球は次のような動作で行われます。

  • ワインドアップ:両手を頭の上に挙げて身体をひねる
  • コッキング前期:球を握っている腕を後方に引く
  • コッキング後期:反動を使って腕を後ろから前に持ってくる
  • 加速期:腕が前に進む速度が上がり、ボールを離す
  • フォロースルー期:ボールを離した後、腕が前方に伸びて緩やかに減速する

この中で肘関節に強く負荷がかかるのは、次の3点になります。

  • コッキング後期:肘の内側が引き伸ばされ、外側は圧迫される
  • 加速期:肘の外側が圧迫される
  • フォールスルー期:肘が勢い良く伸びる事で、肘関節内の骨(肘頭と肘頭窩)がぶつかる

これによって骨や靭帯・筋肉に炎症が生じて痛むのが野球肘になります。

3.野球肘の症状と経過

野球肘では、どのような症状が認められるのでしょうか。

野球肘は肘関節の炎症になります。

炎症というのは、

  • 発赤(赤くなる)
  • 熱感(熱くなる)
  • 腫脹(腫れる)
  • 疼痛(痛む)

といった4つの症状が認められる状態になります。野球肘も炎症ですので、肘関節にこれらの症状が認められます。

この中で実際に困るのは「腫れ」と「痛み」になります。肘が腫れる事・痛む事によって肘が動かしずらくなります。

また野球肘は炎症が生じる部位によって、

  • 内側型
  • 外側型
  • 後方型

の3つに分けられます。

それぞれ特徴が異なりますので、1つずつ詳しく説明します。

Ⅰ.内側型

内側型は野球肘でもっとも多くみられるタイプになります。

肘の内側の靭帯(内側側副靭帯)がコッキング後期に引き伸ばされる事による靱帯損傷になります。

予後は良好で、適切に治療すれば多くは治癒します。

Ⅱ.外側型

外側型は頻度は多くありませんが、重症化しやすく予後も悪いタイプです。

コッキング後期・加速期に肘の外側の骨(上腕骨小頭)が圧迫されて損傷する事で生じます。

圧迫の程度が強いと「離断性骨軟骨炎」と呼ばれます。進行すると上腕骨小頭が割れてしまい、骨破片が関節内に遊離してしまう事もあります。

この関節内に遊離した骨破片が関節内で挟まってしまうと、関節を動かしている途中で引っかかる感じがしたり、関節が動かなくなってしまう事もあり、これは「ロッキング」と呼ばれる症状になります。

外側型は予後も悪く、適切に治療を行わないと選手生命が絶たれてしまう事もあります。

Ⅲ.後方型

後方型は、フォロースルー期に肘関節内の骨がぶつかる事によって生じる疲労骨折や骨棘形成になります。

骨棘というのは骨が繰り返し刺激を受ける事で、徐々に骨が変形して尖ってきてしまう事です。

後方型は予後は比較的良好で、適切に治療すれば多くは治癒します。

4.野球肘の治療・リハビリ法

野球肘はどのようにして治療をすればいいのでしょうか。

まず大切なのは「予防」になります。野球肘は、「野球でピッチャーをしている少年」に発症しやすいと、発症する可能性のある対象がある程度特定できます。そのため該当する子は、常に野球肘のリスクを考えてトレーニングをするべきでしょう。

小さい子ほど骨の発達が未熟で症状も出やすくなるため、特に10歳前後などの小さい子は一日の投球数を制限する事が有効です。

参考までに、肘に過度な負荷を与えない投球数の上限として、

  • 小学生は1日50球・週200球以下
  • 中学生は1日70球・週350球以下
  • 高校生は1日100球・週500球以下

が推奨されています。

野球肘は肘関節を酷使した結果、肘関節に炎症が生じている事が原因です。そのため治療の基本は、「安静」に尽きます。

肘の炎症が治まるまでしっかりと肘を休めましょう。しっかりと治るまでは投球は原則禁止となります。

野球肘の治療で覚えておいて頂きたいのは、ある程度症状が進行してからの治療となると、治りが悪くなる可能性が高くなるという事です。

実際、小学生を対象に行った調査では初期の野球肘に投球禁止を行ったところ、90%が治癒したと報告されています。対してある程度進行した野球肘に投球禁止を行っても、50%しか治癒しなかったそうです。

ここからも分かるように、肘に痛みなどの異変を感じたらすぐに病院を受診し、適切な指導を受ける事が大切です。いたずらに放置してしまうと、最悪の場合選手生命が絶たれてしまう事もあります。

また痛みや腫れが治まっても自己判断ですぐに投球を再開してはいけません。整形外科を受診し、専門家である医師の許可を得てから再開すべきです。

通常、投球禁止を行えば1~2週間で痛みや腫れは引いてきます。しかし症状が治まってすぐに投球を普通に再開するとまた野球肘が発症してしまう可能性が高くなります。医師に診察してもらい、適切なリハビリを経てから再開するようにしましょう。

タイプ別にみると

  • 内側型
  • 後方型

の予後は比較的良好で、多くの方が適切に投球禁止を行えば治っていきます。

対して、

  • 外側型

は注意が必要です。特に進行した離断性骨軟骨炎に至っている場合、手術が必要になる事もあります。また手術を行っても野球に復帰できない事もあります。

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