動脈硬化を調べる「ABI検査」の有用性と仕組み

ABI検査(Ankle Brachial Pressure Index)は、内科で行われる検査の1つです。

下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)が生じていないかを判定するための検査で、これは下肢の動脈が狭窄・閉塞してしまう事によって足のだるさや痛み・血色不良が生じる疾患です。

ABI検査では四肢の動脈の血圧を測定し、その比を求める事で下肢の動脈に細くなっているところ(狭窄・閉塞)がないかを調べます。

ABI検査は数分で行えるため、外来で簡便にASOを検出するのに優れています。また他の動脈検査(CAVIなど)と組み合わせる事により下肢のみならず全身の動脈硬化の度合いを判定する事も出来ます。

ここではABI検査について、この検査がどのような仕組みでどのような有用性があるのかについて説明させていただきます。

1.ABI検査とは

ABI検査とはどのような検査なのでしょうか。

ABI検査(Ankle Brachial Pressure Index:上腕足関節血圧比)は、簡単に言えば「下肢の動脈の動脈に狭窄・閉塞がないかを調べる検査」になります。

ABI検査で測定するのは四肢の計4か所の血圧になります。上肢と下肢の比率、そして左右の血圧の差をみる事で、下肢動脈に詰まりや狭窄がないかを判定します。手足の血圧を測るだけですので、外来で数分で行える簡単な検査です。

通常、血圧は上肢よりも下肢の方が高くなっており、上肢に比べて下肢は1.0~1.2倍ほど高い事が普通です。

反対に下肢の血圧が上肢と比べて低く出た場合(具体的には上肢の90%以下であった場合)、下肢の動脈に狭窄や閉塞がある事が疑われます。

足の動脈が狭くなってしまうと、足の末端に血液が届きにくくなります。血液は全身の臓器や器官が活動するための栄養を含んでいるため、その栄養が届かなくなれば足の末端の組織は十分な生命活動を行う事が出来ません。すると少し歩いただけで足がだるくなったり、痛くなったり、足先の血色が悪くなったりします。

更に狭窄や閉塞が進行すると「下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)」という疾患に至ります。こうなると、血流を改善させるようなお薬を服用したり、血管内治療にて狭くなった動脈を広げたり、最悪の場合は足を切断しないといけない事もあります。

ちなみに下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)の重症度別の症状を表した「Fontaine分類」という分類があるのですが、この分類によると進行するにつれて次のような症状が出てくるようになります。

【Fontaine分類】 【症状】
Ⅰ度 下肢の冷感やしびれ、色調の変化
Ⅱ度 数百m歩くと痛みで歩けなくなる(間歇性跛行)
Ⅲ度  下肢の安静時疼痛
Ⅳ度 下肢の激痛、壊死、皮膚潰瘍

また問題はそれだけで終わりません。

足の動脈が狭窄・閉塞しているという事は、足の動脈が動脈硬化をきたしているという事です。という事は、その他の部位にも動脈硬化が起こっている可能性が高いと言えます。

心臓の血管(冠動脈)の動脈硬化は心筋梗塞を引き起こします。脳の血管の動脈硬化は脳梗塞を引き起こします。腎動脈の動脈硬化は腎血管性高血圧を引き起こします。

ABIに異常がある場合は、これらの疾患も今後生じてくる可能性が高いと言えるため、下肢の動脈の治療のみならず、全身の動脈硬化に対してしっかりと予防していく事が必要になってきます。

2.動脈硬化って何?

ABI検査は下肢の動脈に狭窄・閉塞がないかを判定する検査になりますが、より詳しく言えば動脈硬化を見る検査だと言えます。

動脈の狭窄や閉塞というのはほとんどの場合、動脈硬化によって引き起こされているからです。

ではそもそも動脈硬化って何でしょうか。

動脈硬化というのは、その名の通り「動脈が固くなってしまう事」です。

動脈硬化はなぜ生じるのでしょうか。

動脈は「内膜」「中膜」「外膜」の3層で構成されていますが、このうち内膜が肥厚してしまう事で動脈が硬くなるのが動脈硬化です。

内膜は血液に面している一番内側の膜ですが、ここが肥厚してしまうという事は血管の内腔が狭くなっていくという事になります。

血管が狭くなれば血液が通りにくくなります。更に進行して血管が詰まってしまえばその先には血液が届かなくなるため、先にある臓器は死んでしまいます(これを壊死と呼びます)。

下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)であれば足先の血管が死んでしまう事になりますし、脳梗塞・心筋梗塞であれば、脳細胞や心筋細胞が死んでしまう事になり、これは最悪の場合命を失う事もあります。

このような内膜の肥厚(動脈硬化)はなぜ生じるのでしょうか。

それは内膜に刺激が加わる事が原因です。

刺激の原因としては、

  • 塩分(高血圧)
  • コレステロール(高脂血症)
  • 血糖(糖尿病)
  • タバコ(活性酸素)

などが挙げられます。

塩分(ナトリウム)は血圧を上げると言われてますが、これはナトリウムは浸透圧の関係で水を引き寄せる性質があるためです。

血液中のナトリウムが多くなると血液中に水分も多く引き寄せられるため、血液量が多くなります。血液量が多くなると血管壁を押す力(血圧)が高くなるため、内膜が刺激されやすくなり、これが内膜の肥厚につながります。

また血液中のコレステロールが多いと、コレステロールは血管壁にこびりついてしまう事があります。するとマクロファージと呼ばれる免疫細胞がコレステロールを貪食してその部位に炎症を引き起こすため、その分内腔が狭くなってしまいます。

多すぎる血糖も血管壁の内皮細胞(内膜の細胞)を刺激する事で機能を低下させ、動脈硬化を進行させる事が指摘されています。

タバコ(喫煙)も、活性酸素を発生させる事によって血管壁に炎症を引き起こして内皮細胞を障害する事が知られています。

このような原因によって動脈硬化が進行していくのです。

では動脈硬化を放置しておくとどうなってしまうのでしょうか。

動脈は心臓から送られてくる血液を全身に巡らせるはたらきがあります。

動脈という道路を通って、血液に含まれる栄養分が全身にいきわたり、この栄養分によって全身の組織や器官は生命活動を行っているのです。

動脈が固くなると様々な問題が生じます。

まず動脈が固くなる(硬化する)と、血管はもろくなります。特に内腔がもろくなって狭くなったり、内腔の血管の小さな傷にコレステロールが沈着しやすくなり、動脈硬化は更に信仰します。

また動脈が固くなる(内腔が狭くなる)と、心臓はより頑張らないと全身の隅々にまで血液が送れなくなります。すると心臓はより強く収縮して対応するため、心臓には負担がかかります。このような状態が長く続けばいずれ心臓はへばってしまい、心不全という状態になります。

また心臓が強く収縮して全身に血液を送るようになると動脈にかかる圧(血圧)も高くなっていくため、これが更に動脈に負担をかけ、動脈硬化が進行していくという悪循環になっていきます。

更に動脈硬化によって全身に血液が届きにくくなれば末梢は栄養不足となり、ひどい場合は手足の組織が壊死(死んでしまう事)してしまったり、脳や心筋細胞が壊死してしまう事もあります。

動脈硬化というのは、このように命に関わる疾患も引き起こしてしまう怖い状態なのです。

硬くなってしまった動脈を元のしなやかな血管に戻すのは難しいと考えられています。そのため、動脈硬化がある場合はこれ以上動脈硬化が進行しないように生活を工夫したり、お薬を使っていく必要があるのです。

3.ABI検査の仕組み

ABI検査はどのような仕組みの検査なのでしょうか。

実はABI検査は非常に単純な検査です。

血圧を測った事がある方は多いと思いますが、ABI検査はその血圧測定を片腕だけでなく、四肢の4か所で行う検査です。右上腕、左上腕、右足首、左足首の4か所の血圧を測定します。

同時に4か所を測定する事で、血圧の左右差がないかと確認し、また上下肢の血圧の比率が適正であるかを見ます。これによって下肢の動脈で血流が悪くなっているところがないかを判定します。

通常、上腕の血圧の正常値は139/89mmHg以下になります。そして下肢の血圧に関しては、上肢の1.0~1.2倍ほどの高さと言われています。

つまり、正常の方のABI検査の結果は、

(右上腕)122/65 (左上腕)128/58
(右足首)132/72 (左足首)135/70

このようになります。

この検査値の正常を判断するポイントとしては、

  • 血圧に左右差がない
  • 下肢の血圧は上腕の1.0~1.2倍
  • 上腕の血圧が139/89以下

を満たしている事になります。

では次にABI検査で認められる2つの異常所見について見ていきましょう。

Ⅰ.全体的に高い

ABI検査の結果が次のような値であった場合は、どのような判定されるでしょうか。

(右上腕)150/102 (左上腕)155/98
(右足首)162/112 (左足首)165/110

判定のポイントを1つずつ見ていきましょう。

  • 血圧に左右差がない → 〇
  • 下肢の血圧は上腕の1.0~1.2倍 → 〇
  • 上腕の血圧が139/89以下 → ×

血圧に左右差はありません。また下肢の血圧は上腕よりやや高めです。ここまでは正常です。しかし上腕・下肢ともに血圧が正常値を上回っています。

これは、「今のところ動脈の狭窄や閉塞はないけども、動脈に負担がかかっている状態」だと言えます。いわゆる「高血圧」です。血圧が高いため、このまま放置してしまうと動脈硬化や動脈閉塞のリスクが高くなります。

今のうちに高血圧症に対する治療を導入する必要があります。

Ⅱ.下肢が低い

ABI検査の結果が次のような値であった場合は、どのように判定されるでしょうか。

(右上腕)140/90 (左上腕)138/88
(右足首)150/92 (左足首)112/70

判定のポイントを1つずつ見ていきましょう。

  • 血圧に左右差がない → 手は〇 足は×
  • 下肢の血圧は上腕の1.0~1.2倍 → 右は〇 左は×
  • 上腕の血圧が139/89以下 → ×

全体的に血圧はやや高い傾向にありますが、特に異常なのが左足首です。本来であれば左足首の血圧はもっと高くないといけないはずです。

全体の血圧は高めなのに、左足首の血圧が低いという事は、左足首に十分な血流が流れていないという事です。つまり、左足の動脈のどこかが狭くなっている可能性が高くあり、左下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)の疑いがあります。

ちなみにABIは、

ABI = 足首の収縮期血圧 / 上腕の収縮期血圧

で求められ、正常値は1.0~1.2になります。

この数値が低いほど下肢に動脈の狭窄・閉塞がある事を示唆しています。

ABIが0.9未満 軽度の狭窄または閉塞の疑いあり
ABIが0.6未満 中等度の狭窄または閉塞の疑いあり
ABIが0.4未満 重度の狭窄または閉塞の疑いあり

0.9以下であった場合は、一度専門科(循環器内科、血管外科など)に相談し、更なる検査や治療を行う事が望ましいでしょう。

Ⅲ.上腕が低くなる事はあるの?

ABIは主に下肢の動脈の狭窄・閉塞を判定する検査になります。でも四肢を測定しているのだから、上肢の動脈の狭窄・閉塞も判定できるはずと思われる方もいらっしゃるかもしれません。

これはその通りで、もし上腕の動脈に狭窄・閉塞が生じていたら上腕の血圧が異常に低くなるはずです。

しかし上腕の動脈は比較的動脈硬化が起こりにくい部位だと考えられており、そのようなケースはほとんど経験しません。

4.ABI検査と合わせて行いたい検査

ABI検査を行う際は、その他の検査を合わせて行う事があります。

これらは同時に行え、また同じく四肢の動脈硬化を判定できる検査です。ABI検査と合わせて行う事によってより詳細に動脈硬化を精査する事が出来ます。

Ⅰ.CAVI(心臓足首血管指数)

ABIが「動脈の狭さ」や「動脈のつまり」を判定するのに対して、CAVI(Cardio Ankle Vascular Index)は「動脈硬化の程度」を測定する検査になります。

いわゆる「血管年齢」を数値化する検査というイメージを持って頂ければいいでしょう。

ABIは動脈硬化が生じていても内腔が狭窄していたり閉塞していないと異常値は出ませんが、CAVIは動脈硬化が生じていると異常値が出るため、より早い段階から血管リスクを検出できる検査だと言えます。

CAVIでは「硬いものほど伝導は速く伝わる」という原則を利用しています。ブヨブヨした柔らかいものより、鉄のような硬いものの方が振動もよく伝わりますよね。それと同じです。

CAVIは心臓が拍動してから、その脈波が四肢に到達するまでの時間を測定し、心臓から四肢までの距離に対しての脈波の速度を計測します。ちなみに心臓の拍動は「心音マイク」というものを胸に付ける事で検出します。

速度が速ければ速いほど動脈が固くなっている、つまり動脈硬化が進行していると考えられます。

CAVIの計算式は複雑であるため、一般の方が理解するのは難しく、ここでは記載しません(ちなみに一般の方のみならず医師でも計算式をしっかりと理解できている人は少ないと思います)。

簡単な理解としては、数値が8.0以下が正常値で、数値が高ければ高いほど動脈硬化が進行していると言えます。

数値が9.0を超えていると動脈硬化に至っている可能性が高く、50%の確率で脳動脈や冠動脈(心臓を栄養する動脈)に動脈硬化があるともいわれています。

この場合、この状態を放置してしまうと脳梗塞・心筋梗塞のリスクとなるため、早い段階から動脈硬化を進行させないような生活習慣の工夫やお薬の投与などが必要となります。

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